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こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
(
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922)
の幕間を公開している近況ノートです。
ベラ編のネタバレを含みます。
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よいしょと荷物を背負い直して顔をあげる。
大きくて深い森と、そこから流れ込む川が複数。
水場が豊富なのはいいですね。
なんて思いながら歩を進めていくと、荷台を軽くした牛車が向かいからやって来た。道の脇へ避けて、やり過ごす。御者台に居たお爺さんが麦わら帽子の先を摘まんで挨拶をしてくれた。
「あっ、あっ、ありがとうございますっ」
「ははっ。元気でねえ」
そのまま行き過ぎてしまったけど、私みたいなのを見て怖がったりしないんでしょうか。
故郷の方だと皆して怖がって遠巻きにしたり、面白がって石を投げてくる人も居ますけど。
でも、そうだ。
ロンドさんが言っていた。
この先にあるのは冒険者の町。
身体が大きいだけの人なんて幾らでも居る。
他所じゃ差別される獣族と呼ばれる人達も、行く先々で揉め事を起こすと言われる自称世界の支配者耳長の長寿族も、お調子者が多くてお金稼ぎが大好きな小人族とか、もっともっといっぱいの、私が見た事も無いような人達がひしめき合っている場所。
クルアンの町。
今日は、商館の眼鏡の方から勧められて、交易路の開拓とかいうのに参加しにきたのです。
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「テメエよくも言いやがったな!?」
「ああ幾らでも言ってやる! この根性無しがあ!!」
わっ……あ、こ、怖い。
商会発行の通行証であっさり通して貰えたけど、市壁を越えてすぐ喧嘩をしている人達を発見してしまった。
今はまだ昼前なのに、お酒を飲んでいるのか赤ら顔で。
店先で同じく飲んでいる人や、道行く人たちが面白がってはやし立ててる。
故郷じゃそんなの滅多に見ない。
喧嘩を見付けたら守備隊が飛んできて必死に抑えようとする。
なのにここは、なんで皆面白がってるんです……?
お酒を片手にはやし立て、どっちが勝つかなんて賭け事まで。あまりに私のいつもと違い過ぎて、良い事なのか悪い事なのかも分かりません。
怖いので急いで通り過ぎていくと、また少し通る人達の雰囲気が変わった。
あっ、と思う。
この人達、ロンドさんと同じ冒険者だっ。
武器を手に、整えられた防具を身に付け、仲間と何かを話している。
と、きょろきょろしていたせいか、その内の一人が駆け寄って来た。
怒られるっと身を強張らせた私に、神官服を着た女の子が声を掛けてくる。
「大丈夫ですか? 道に迷ったんでしょうか……?」
私が落ち着きも無く辺りを見回していたせいでした……。
「ち、違います。お仕事で……でもっ、今はちょっと観光気分で」
「ふふ。なら、せめてお荷物くらい降ろしてからの方がいいですよ」
「トゥエリーっ、リーダーが呼んでるよー」
「あっ、はーい!」
名前を呼ばれたその子は、もう一度私へ振り向いて笑みを浮かべる。
とても綺麗な子。
小柄で、女の子らしくて、こんな風になれたらなって思うけど。
ロンドさんと朝までしてた時の事を思い出して、鼻の下をさすった。
こんなだけど、こんなじゃなくて、こういう私だから、あの人は抱いてくれた。
その自信はいつも、少しだけ私の背中を押してくれる。
「何かあったら神殿か、『スカー』の冒険者ギルドへどうぞ。特にウチの冒険者ギルドは、些細な事でも応じてくれますよ」
「ありがとうございます」
「はい。では」
でもやっぱり、ああいう子には憧れる。
身に付けてた装飾品とか……この町で手に入るものなのかな?
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商館での話を終えて、宿に荷物を置いてから酒場へ向かう。
以前ならあまりやらなかったことだ。
荷運び仕事で各所を回ってる時も、集落や村々で泊めて貰うのを避けて、野宿ばかりしていた。
周りからの反応が怖かったし、ね。
だけど旅先の興奮とかもあって、ここがロンドさんの言ってた場所なんだって思うと好奇心が湧いてくる。
あの人に指摘されるまで分からなかったけど、私は好奇心が強いらしい。
縮こまっていた気持ちが一度顔を上げると、一気に視野が広がる。
私は大きいから。
人より遠くを見通せる。
なんて……へへへ、すみません。
「相席いいですかー? ちょっと混んでましてっ」
「は、はいっ」
流石は噂のラガービールを出すとかいうお店。
ラガーってなんだろう。エールとかは聞いたことあるけど、お酒の事は良く分からない。
ただ、案内された机には凄く綺麗な女の人が酔い潰れていて。
「あン……?」
「す、すみませんっ」
「あぁ、相席ね。どうぞどうぞ。好きに座っちゃいなよ、余ってるの食べてもいいよ」
「いえ、そんな」
恐縮しながらもまずは座る。
座っちゃいなと言われたので。
やってきたお店の方にお金を渡して、これで好きに飲ませて下さいとお願いする。ロンドさんから教わった方法だ。
酔うと金勘定が曖昧になるから、信用できる店なら最初から上限を決められるよう店側に管理させる。ここなら、平気だよね? ロンドさんのお知り合いが経営している酒場って話だし。
「ふふっ、アイツみたいなことするねぇ」
向かいのお姉さんが楽しそうに言う。
「アイツ、ですか?」
つい応じる。
「そう。なんていうかさ、自分は冒険者だーって豪快に振舞いたがる癖に、変な所で気が回るんだよね。小賢しいっていうか、なんでそんな所まで見てくれてるのって嬉しくなっちゃってさ」
「あ、はい。分かります。私も……つい最近、そういった方に色んなことを教わりましたので」
「へぇっ、いいひと?」
ぶわっと頬が熱くなる。
ちょうど運ばれて来たラガーをぐびっと煽って、その驚くような冷たさに反して身体が一気に熱くなる。
「い、いいい、い、ひと、とは言えませんけどっ、私は憧れてますっ」
「あーっ、初恋かなぁ? わぁ初々しい、可愛い~。ねえねえ聞かせてよお」
私は彼との思い出を話しました。
恥ずかしかったのでお名前を出したり、具体的な所は省きましたけど、それでもお姉さんは満足してくれたみたいで、自分の事みたいに聞いてくれる。
「分かるなぁ……っ。そうやってさ、一度決めたら捨て身で動いてくれるのぉ、んふふふふっ。でもそれが心配でもあるんだよねぇ。特にここ最近は落ち着き? みたいなのも出て来て、見た目には冷静っぽいけど、結構情に流されたりする奴だからさ。はぁ……ほんと、分かってないんだよ、アイツ自身もさぁ」
「アリエルさんは、その方のことをよく見てるんですね」
私は、ロンドさんのことをどれだけ見ていたかな。
結構不安になる。
初めて会った時の彼は、その後の事を考えると本当におかしかったのが分かる。
苛立って、苦しそうで、かと思えば周囲には明るく振舞ってみせる。それが一時的に一夜の記憶ごと他を忘れたことで出てきた、眩し過ぎるくらいの真っ直ぐさ。
何故そうなっていたのかは、結局聞けなかった。
「やぁだっ、そんなんじゃないってばっ、ふふ! ほら飲みましょうっ、湿気た話しちゃったし、もうちょっと景気の良い話をさっ」
次会うことがあったら、私が力になれるかな?
うん。
そうなる為にも、今の仕事を頑張らなくっちゃ!
「お互いの未来に」
「か、乾杯ですっ」
「乾杯!!」
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南へ。
ひたすら南へ。
私は南方の交易路開拓に志願した。
本当は慣れた北方の、未開拓な部分をちょろちょろっとお手伝いするだけの予定だったけど、つい勢い任せに名乗り出てしまいました。
私が一番驚いてる。
南方といったら、とても肥沃な土地で、年中温かい場所だってあると言われる場所です。
ロンドさんが言うには、南は引退した冒険者が余生を過ごすのに選ばれていて、北や西のように貴族が幅を利かせることなく、自由に生きている人が多いんだとか。
クルアンの町を出て少し南下すると、港町へ出る。
そこから船に乗って更に南へ。
途中、砂漠なんていうとんでもないものを見ました。
嵐に巻き込まれて船が難破し、砂漠地帯で何日も彷徨い、倒れた人達を背負ってどうにかオアシスへ。
我ながら大冒険でした。
何度も死ぬかと思って、だけどロンドさんとの日々を思い出して頑張りました。
私の身体は寒さには強いかったけど、暑いのは結構苦手で、だけど力ならあったから。
最後の最後で倒れてしまった私達を助けてくれたのは、吟遊詩人の女性でした。
「やあっ旅人よ。君達の来訪を歓迎しよう! うん、まずは水と食料だ。ゆっくり休んで、その後で聞かせておくれ? 君達の冒険をさっ」