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こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
(
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922)
の幕間を公開している近況ノートです。
トゥエリ編のネタバレを含みます。
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雪だあああああああああああああああああああああああ!!!
雪だ雪だ雪だ雪だ雪だ雪だ雪だ雪だ雪だ雪だ雪だああああああああああああああああああああああああああああああ!!
うおおすっごい冷たいふっかふかだあああああああ!!
住んでた場所には雪なんて降らなかったからっ! 最初空から変なものが降ってきた時、魔物が攻めてきたんだって慌ててロンドさんへ詰め寄った!
これはねっ!
雪っていうんだよ!!
うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! おっほほほほほおおおおおおおおおお!! ひゃあふうううううううううううううううっ!!
ギルド会館の壁を駆け上がり屋根から飛んでふわふわ落ちてくる雪の結晶を捕まえたっ! ちっちゃい! 綺麗! 一杯ある!! あっ!?
着地を忘れて落っこちた。
だけど平気ッ、雪は柔らかくって大丈夫! ふっかふかになって朝なんて入り口が埋もれちゃうくらいになるんだってロンドさんが言ってたよ!!
あいたっ!?
大丈夫じゃなかった!! まだ降ってきたばっかりだから!! 薄い!
にゃっははははははははははははははァ!!
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なんて興奮していた日も今は遠く、天幕から見える雪景色を前にトゥエリの淹れてくれた薬草茶をずるずる啜る。
景色を愛でてお茶を飲むのが淑女だにゃ。
私は大人の女、そういうことよ、にゃ。
「ずるずるずるずる……苦いにゃ」
「啜るのはお行儀が悪いよ、ディト」
「だって熱いにゃ。猫舌にゃ」
「もう」
寝起きで冷えた身体を薬草茶が温めてくれる。でもそれだけじゃ足りないので、寄ってきたトゥエリを捕まえる。あったかにゃー。
「……ごがっ、ん」
唐突に奥から聞こえたイビキに二人して顔を合わせ、笑う。
にゃふふ、ロンドさん昨日の夜中、吹雪で天幕の一部が壊れたの遅くまで掛かって直してくれてたからにゃあ。
手伝うって言っても、全員で消耗する訳にはいかないとか言って、結局全部一人でやっちゃった。
だからイビキも寝坊も当然の権利。
戦った者には安息が必要にゃ。
盛大にごがごが言うがいい!
「んん……がっ」
「ぷ、ふふふふっ」
「ふふっ」
クルアンの町を出て最初の夜は越えた。
目的地まではあと二日くらい掛かるそうにゃ。
雪の中を抜けていくのは大変だけど、三人一緒なら全然平気。一緒の天幕で寝て、毛布を分け合って、薬草茶を飲んだりイビキを聞いたり、楽しい事ばっかりで冒険者になって本当に良かったあって思う。
ちょっと前に死んじゃったリーダー、ニクスさんの事は残念だったけど、立派だったってギルドの皆から言って貰ったにゃ。今頃納骨堂で大宴会してるみたいだから、きっともう、悲しくない。
「あぁ……っ、悪い、寝坊したか」
しばらく二人で暖まりあっていると、ロンドさんが起き上がって来た。
因みに開けてた入り口は閉められたにゃ。寝てるロンドさんが寒いからってトゥエリに怒られたにゃ。
「いえ。よろしければ飲んで下さい、温まりますよ」
すぐに寄っていったトゥエリが差し出した薬草茶に、寝ぼけ顔のロンドさんがちょっとだけ、うっとした顔になる。
トゥエリは真面目で良いパーティメンバーだけど、お茶の趣味は悪いにゃ。
薬草茶、苦いし不味いにゃ。
ケンコーとかには良いらしいにゃ。でも不味いにゃ。でも不味いっていうとお説教されるから黙って飲むにゃ。ロンドさんは特に苦手らしいにゃ。
冒険者の血と肉は酒で出来てるからにゃ。
「長旅は食べるものに偏りが出ますから、薬草茶はとても良いんですよ」
「分かった。あぁ、うん、ありがとう」
鼻摘まんで飲んでたから、脇腹くすぐったら噴き出したにゃ。
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二日目の宿場はちょっとした町みたいになってたところ!
大きなお山の麓で、あったかいお湯の出るすっごい町にゃ!
クルアンの町でも引退した冒険者とか、歳食ったジジイとかが古傷がーとか言いながら湯治に来るんだそうにゃ。中でもボロい宿を選んだけど、それでも結構お高いのは温泉っていうのがあるからだって! ふふふ、ロンドさん直伝の採取クエストでお金を蓄えた私達なら銀貨袋でほっぺをべちーんにゃ。
それにアーテルシアの口付けで道が雪に埋もれてからは人が全然来ないらしいにゃ。
おかげで私達三人独占だーっ。
ロンドさんは男湯だけどにゃ!! ははは!
「あ、悪い。そっち石鹸ないか?」
温泉を前に仁王立ちしてたら、木の間仕切りの向こうからロンドさんの声。
洗い場には幾つか石鹸が置かれていて、今もトゥエリが身体をごしごし中。男湯にはなかったのかにゃ?
お湯を被って泡を流したトゥエリが髪を纏めながら言う。
「……すみません。少し待って頂けますか? 着替えて持って行きます」
「いや、それならほら、上が開いてるだろ」
確かにこのお風呂、空が開けてて気持ちがいいにゃ。
うんそうだにゃ。
「あ……ええと」
間仕切りの上を見ながら、どうすればいいか悩んでいるトゥエリから石鹸を取り上げて、ちょっと開けた方へ移る。
「いっくよー」
「おー、頼む」
という訳で跳ぶ!!
そして着地!!
「ディ、ディト!?」
なんか向こうでトゥエリが慌ててるにゃ。
「お、っとぉ……びっくりした。こっちは男湯だぞ、ディトレイン」
お互い素っ裸、お空は快晴、そして石鹸をどうぞ。
「ありがとな」
「いいってことよ」
「ディト! 早く戻って来なさいっ。女の子がそっちに行っちゃ駄目よっ、貴女も裸なんだからっ」
にゃはははは!
別に裸くらい見られても平気にゃ!
故郷だと皆して裸になって湖へ飛び込んで遊んだり、水浴びしたりしてたからにゃあ。
「こっちの方が景色がいいにゃ」
「ほう、そうなのか?」
慌てるトゥエリと違ってロンドさんは普通にしてる。
うんうん、そういうものにゃ。
でもちょっと視線がこっちに向いてくるから、私もじっくり見返したにゃ。
き●たまでけえ!!
「おー」
「こらこら、触るんじゃありません」
「えーっ、でもおとうちゃんよりでっかいよ! 竿の方はちっちゃいけど!」
「おっとお? ロンドさんのロンドさんを舐めてくれるなよ。今は寒いから縮んでるだけなんだよ、ちょっと待ってくれれば今臨戦態勢に――――」
「ロンドさんは何を言い出してるんですか」
トゥエリ怖。
間仕切り越しなのにもわもわと黒いのが出てるっぽいにゃ。
「にゃはは! 気になるにゃらトゥエリも来ればいいにゃ! 今なら他に誰も居ないし、でっかいき●たま見れるにゃ! 竿はちっちゃいけどにゃっ!」
「~~~~っっ!! ディトォ……!」
きっと今頃顔を真っ赤にして怒ってるにゃ。
ロンドさんも同じ想像をしたみたいで、目が合って一緒に笑った。
「安心しろよ。パーティメンバーに手を出す気はない。家族みたいなもんだろ」
良い事言うにゃあ。
家族。
家族は大事にゃ。
「にゃふふ。でもそこまで無反応だとちょっと悔しいにゃあ」
「ほう? 俺を興奮させられるか、やってみるか?」
「うっふんにゃ」
胸を寄せてしなを作る、別ギルドのえろい恰好したお姉さんから教わった悩殺の構えにゃ。
「悪くない眺めだ。けどロンドさんを誘うにはまだ足りないなァ」
「うーっ、悔しいっ」
「はははっ。ほら、そろそろ戻りな。トゥエリが黙り込んでるからな。杖持って殴り込んで来てもおかしくはないぞ」
「そっ、そんなことはしませんっ」
けど声は女風呂の出入り口寄りから聞こえてきたにゃ。
仕方ないにゃあ。
ロンドさんへ持ってきた石鹸を渡し、間仕切りの上へ跳び上がった。
細い木の板の上、ちょっと揺れたけど上手く乗れた。
うーん、良い天気、良い景色!
「ロンドさーん」
「うん、どうした?」
早速身体を洗い始めていたロンドさんを上から見下ろしつつ聞いた。
「あっちの方に見えてる山が目的地でいいのかなー?」
「あっち? あぁ、北の方は……女湯の側だな。正面の右手側に見えるか?」
あれかー。
大きな雪山。真っ白。わくわく。
「あれが次の冒険の舞台にゃ!! にゃっははははは!!」
第二の故郷、第二の家族、みんな大好きにゃ。
きっと今回の冒険も、楽しいものになるにゃあ!
北の空から、また大きな雲が流れてきた。
さあ、行こう!
冒険へ!!