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有形のコラプス第69話

こんにちは。宇津喜です。
前のノートから大分期間が空きましたね。徐々に春の匂いもして来ました。
桜は咲きましたし、白木蓮も見れました。遠くに見えるビルも、以前よりも近い位置で白く霞んでいました。あれが春霞でしょうか。

さて、第69話まで来ました。
随分、長く続いていますね。読んでくださった方、ありがとうございます。執筆の支えです。

親子の再会を果たし、いざ帰るぞという場面でしたね。また、門の向こう側の情報も明らかになりました。

あの世だけどあの世でなく、かつこの世ではないがこの世に近くという、大分自由度の高い世界です。謂わば、穴という概念で出来上がった空間なので、内側の人々の意識によって、在り方は変わって行きます。いーちゃんはこの展開を予想だにしてないと思いますが、人間好きで、人の道行きを眺める彼なら、それも有りじゃなと受け入れてくれるでしょう。人の選ぶ選択を尊重してくれるタイプなのです。また、彼は門に入れば、澱みを濯げて、復活出来るでしょう。

少し話を戻しますが、靎蒔の家の話をします。
作中における一番の謎、そして、大体の原因を担う家です。身内同士でいがみ合わなければ、いーちゃんがああなることも、聶斎房の暴走を見過ごすことも、千歳が闇堕ちすることもなかったのですが、気付いた時にはもうどうしようもなかった感じです。
千歳の過去は恐らく、登場人物の中では酷いものです。時代的な理由もありますが、簡単に人が死んで、自分も他人も簡単に一線を超える中で、ただ家を存続させるためだけに何でもして来たのです。本当に何でもして来たので、千佳を見付けてから自覚した罪悪感というのは途方もないものだったでしょう。それを為したことに後悔はないけれど、それを為した罪は理解しているというものです。
神様を殺して、神様を作るという家の成り立ちからして、尊いものも足蹴にできる性質のある家ですが、それは役割を果たすためにやることであって、理性も人の情もちゃんと持ってはいたのです。

そういう点では、千鶴も千雨も愛情深い人です。ですが、千歳と同じく、為さねばならぬことなら何でもしなければならないという、家の束縛から抜け出せなかった人です。千雨は家の不始末を片付けに行きましたし、千鶴は子を守るために家の中で工夫をしました。二人とも、家という枠組みの中で戦ってはいたのですが、あまりに膿が多過ぎて、身動きが取れないでいたのも事実です。
だから、終わらせるしかなかったのでしょう。

現在の門の内側で靎蒔の人々が比較的平和に過ごしている理由も、それを自覚し理解したことと、百年以上前の御当主様という力関係のトップがいることが、安定に繋がっているようです。
このことには、茜藏が一番、注力したことです。彼女は優秀ですが、その優秀さの一つは人との付き合いの上手さです。すっと人の内側に入り込み、仲良くなってしまう。千佳も直ぐに気を許していましたね。
ギスギスの靎蒔の家を、まあ色々あったけど心機一転頑張ろうなという雰囲気に変えてくれたのです。全ての人の心の中まで変えた訳ではありませんが、表面上は問題なさそうですね。
一緒に穴に落ちたのが楽號だったら、ギスギスは続いていたでしょうし、なんなら、千鶴との関係がバレたら彼はとんでもない目に遭っていたでしょう。不幸中の幸いです。
楽號も割と目的のためなら手段を選ばないタイプで、薄情な方ですが、千鶴と千佳と出会ってからは大分軟化しました。言葉選びも大分柔らかくなりましたし、一人称も変わりましたし、でも、それは無理してそうしたというよりかは、自然とそう接したくなったという心情の変化によるものですので、自分を偽っているという訳ではありません。
彼と千鶴の出会いも書きたかったですね。

作中であまり書かなかったことで、千佳の門を通って行った幽霊のその後についてですが、西の森で暮らしている者もいれば、空いた門の隙間から正しいあの世へ向かった者もいます。彼等の記憶自体は、千佳を通り過ぎた時に焼き付いているので、いつでも参照可能になっています。千佳はデータのコピーを持っているような感じですね。

ここからは余談です。まあ、ここまでの話も全部余談ではあるのですが。
私の作品『無形のクラッジ』を読んでくださった方は、もしかしたら聞き覚えがあるかもしれない、冠水の町という名称は、そのままあの冠水の町です。形容し難い者達にとっての居住空間のあの場所です。
生命が芽吹くようになった、後のこの町で生まれ始めたのが形容し難い者達です。それは現世にも影響を与えるようになります。そして、至る所に彼等が生まれることになり、時に、時間を遡って生まれることも。
ですが、それはまた別のお話……。

随分と話が長くなりました。
ここらでお終いとします。
後、少しで最終話です。もしお時間があれば、覗いて頂けると嬉しいです。

有形のコラプス
https://kakuyomu.jp/works/16816700427509671205

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