「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」(
https://kakuyomu.jp/works/16817330647645850625)第二章まで公開しました。
芝居(作中では華劇《ファジュ》)命のヒロイン・燦珠が、舞で芝居嫌いの皇帝を黙らせたところまでですね!
起承転結の起まで、でもありますので、世界観・作品の雰囲気が十分掴めるボリュームになっているかと思います。中華後宮もの、パワフルなヒロイン、謎めいた美形ヒーロー……等がお好きな方には刺さるかと。あと、宝塚やミュージカルがお好きな方にも、ですね。
次章からは、男役のキャラクターが出て来たり、後宮の勢力図や政治上の不穏な気配も出てきたりと話が広がっていきます。が、ヒロインの燦珠は相変わらずな感じになります! 明日以降、当面毎朝1話ずつの更新となりますので、引き続きお楽しみいただけると幸いです。
カクヨムコンに参加している作品でもあり、読者選考突破のため、楽しんでいただけましたら★やフォローで応援いただけますと幸いです。
カクヨムコン参加作は、短編も含めてコレクションに纏めておりますので(
https://kakuyomu.jp/users/Veilchen/collections/16817330650236183751)、覗いてみてくださいませ。
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さて、本作中における芝居「華劇《ファジュ》」は、お察しの通り京劇をベースに描写しております。が、作者が宝塚の民のため、意識的/無意識に宝塚的な価値観・常識が入っている部分が多々あります。当然のことながら、小説に落とし込むにあたって事実を曲げている点も。
(大丈夫だと思いますが)100%真に受けていただくと困ってしまうので、宣伝&ジャンルを好む読者様作者のご参考に&作中に盛り込み切れなかった小ネタ開陳も兼ねて、調べたことや参考文献などを、コンテスト期間中を通して時々こちらで開示していこうかと思います。
まずは、京劇の行当《ハンダン》=役どころについて。京劇には下記の通り主に四つの役どころがあります。花旦綺羅~では読みやすさと分かりやすさ重視でルビを振っていますが、もう少し&私の理解が及ぶ限り正しく記述してみます。
生《ション》
花旦綺羅~では「二枚目役」とルビを振っていますが明らかに嘘なので信じないでくださいね。行当《ハンダン》の筆頭に来る癖に生《ション》の役柄は幅広すぎて……どう括れば良いやら素人には悩ましいのです。
老生《ラオション》というように老人役もあれば、英雄侠客などを演じる武生《ウーション》もあり。役柄の職業(?)で言っても、官吏もいれば庶民もいるし、頭に羽根飾り(翎子《リンズ》)をつける将軍も──ということでひと言で括るワードがちょっと思いつかないのです。歌舞伎でいうところの立役《たちやく》にほぼ相当するのだろうとは思いますが、多くの読者にとって分かりやすいルビかというとそれも違う気がして困りますね。花旦綺羅~の作中においては、宝塚におけるスター路線、くらいの認識で描写しております。
旦《ダン》
女性役全般。伝統的な京劇(意外にも(?)歌舞伎よりも伝統浅いのですが)では歌舞伎と同様、男性が女性役を演じましたが、現代では通常は女性が演じます。YouTubeで動画を漁っていると「男花旦」として活動されている方も見つかって興味深いと思いました。女医とは言うけど男医とは言わないように、職業で男〇〇とつく例はとても少ないですよね。女役は女が演じるもの、というのが完全に浸透している感があって、燦珠を描いていると感慨深いのです。
また、歌舞伎との比較で言うと、歌舞伎での女形=女性役を演じる男性の役者、に相当するのは京劇では男旦《ナンダン》、と字面が逆になるため、感覚的にすごく分かりづらい気がします。
演じる役どころによって花旦《ファダン》=若く活発な娘役、青衣《チンイー》=身分の高い女性、刀馬旦《ダオマーダン》=騎乗する女将軍などに分かれます。役どころによって歌い方や所作などが細かく異なるそうなのですが、青衣の代表格である覇王別姫の虞美人は剣舞を踊るし、帝女花の長平公主はお姫様ですが花旦役なので難しいですね! 設定上の身分だけではなく、作中の振舞い・立ち位置によっても決まるということなのだろうと素人なりに認識しております。
浄《ジン》
京劇といえばこれ、の臉譜《リェンプー》=隈取《くまどり》を施す役どころ。大柄な男性が演じます。燦珠の父・梨詩牙は浄役の名優です。
しばしば「敵役《かたきやく》」と説明されますが、覇王別姫の項羽、三国志の張飛、中国における大岡越前守と名高い包拯《ほうじょう》など、どう考えても悪役じゃないよな……という役どころも多いのでやはり意味するところは複雑そうです。花旦綺羅~では「豪傑役」と括らせていただきました。これでもまだ違う気はするのですが……。
臉譜の色や形は役の性格を表します。赤は忠義、白は奸智、黒は正義など。左右対称の端正な模様は清廉潔白な人柄を、左右非対称の歪んだ模様は醜悪な容姿や狂暴な性格を表す、など。
丑《チョウ》
主に道化役。燦珠が作中で道化メイク、と語った小花譜《シャオファリェン》は、顔の中心だけを小さく塗る臉譜《くまどり》でいかにも滑稽な雰囲気です。
とはいえ丑も道化役で括れるかというと微妙で、例えば西遊記ものの孫悟空も武丑《ウーチョウ》なんですよね……軽妙な動きを魅せる役どころ、と捉えたほうが良さそうです。なお、孫悟空の臉譜は「人外のもの・神仙の眷属であること」を表す金を使います。
浅ーい理解ではあるのですが、とりあえずはこんなところで。
ちなみに、京劇役者は基本的にひとつの行当を究めるものなので(現代の学校でも最初に専攻を決めるのだとか)(転向する場合も一応ある)、花旦も青衣も刀馬旦もやる気満々の燦珠は本来はおかしいですね。これは、公演ごとにあらゆる時代や場所の物語を扱う・必然的に演者(ジェンヌさん)も幅広い役柄を演じることになる宝塚から来る発想ですね。こんな感じで良いところ取りして描写しております……。
花旦綺羅~の裏話は、今回はこんなところで。「ここが聞きたい」または「お前何考えてこれをこう描いた??」な箇所がありましたらお知らせくださいませ!