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「比肩相如」解説と裏話

「比肩相如」が完結したので、今回もまた解説と裏話について書こうと思います。
例の如く、ネタバレにご注意ください。



















■益州長吏の蘇頲

記録では李白二十歳のころに蘇頲と出会い、その文才を「司馬相如に比肩しうる」と称賛されたとあります。
ではその蘇頲は何者かという話になるわけですが、これは作中でもあったように一時は百官の長たる宰相も務めた官僚です。先の記録と照らし合わせると、作中の四年前に宰相に就任しています。
……それがなぜ益州の長吏、すなわち地方官に?

これについては私の勝手な想像ですが、おそらくは左遷されたのでしょう。
下調べ中に見かけたとあるサイトでは、蘇頲が皇帝に対してある行いを「縁起が悪い」と申し立てたところ、対立していた者に反論されたとの話がありました。
実際にそのような事があったのならば、その後蘇頲は皇帝の信頼を失い、左遷されたと考えてもおかしくない。

そして長安から蜀へ至るには、「蜀道難」でも詠まれる険しい道程が。
若くはないであろう蘇頲がその難所を抜けるにあたり、己の身の上を陳皇后になぞらえて嘆いたと考えても不思議ではありません。
そのために、彼は李白の「長門怨」に激しく心を揺さぶられた――と、これは作者の想像です。

実際に蘇頲が李白のいずれの作を目にしたのか、そこまでは調べがつきませんでした。

■長門怨の解釈

「長門怨」の解釈については、出典の訳を加味しつつ私自身の言葉で再出力しています。
その中で、「明鏡」の解釈については完全に創作となっています。

元の訳では「月はただ寂しくわが身を照らすだけ」の意味しかありませんでした。
そのままの意でも蘇頲は悲しみの涙を流したでしょうが、個人的にはやはり明るい方向にもっていきたかったので、これを「残された希望の光」としたのです。

■ようやく登場した二つ名

武侠モノには敵も味方も二つ名が付きもの!
――だというのに、これまで主人公組には二つ名がありませんでした。
え、蘭香? あれはほら、あくまで自称だから……。

李白については、本当は「戴天道士」で初めて「青蓮居士」を名乗らせるつもりでした。
山頂の桃園に蓮池があったのはその仕込みです。が、書いているうちにうっかりそのシーンを入れ忘れ……(おい)。
今回ようやくのお披露目となったのでありました。

李白は自らを「新生江湖三侠」と称しているため、二つ名は旧・江湖三侠を意識したものとなっています。
旧・江湖三侠は「色+衣服+人を示す言葉」でした(白衣聖人、紅袍賢人、紫衫天人)。
これに対し、李白ら新生江湖三侠は「色+象徴的な物や道具+人を示す言葉」となっています。

辛悟と東巌子については創作ですが、李白の「青蓮居士」については記録にあるものです。
青蓮とは水蓮一種で、しばしば仏典で仏の目元にも喩えられます。居士も在家の仏教徒を示す言葉。となると、道士を目指していたはずの李白は、なぜか仏教に関する言葉で二つ名を名乗ったことに。これはなんだか奇妙な話です。
実際のところは「青蓮居士」初出の作の背景に由来するのでしょうが、本作では「李白が青蓮の池の側で、仏寺の義兄弟と武芸を研鑽したため」としています。

■新たな敵

これまでの「剣侠李白」は「主人公側のキャラ紹介」でした。
つまり、ここからは「悪役側のキャラ紹介」が始まるのです。

その第一弾が今回登場した「天吏獄卒」。
悪しき役人を正義の名の下に粛清するダークヒーローとでも言いましょうか。それだけ聞けば民草の味方ですね。

しかし作中で蘇頲も言っているように、そもそも侠客とは法を無視して刃を振るう犯罪者にほかならず、罪を問われれば捕縛されるような身の上でした。

天吏獄卒は正義を語ってはいるものの、彼自身もまた法に背く犯罪者であります。
その自己矛盾はこの後どのように捩じれていくのか、ご期待ください。

そして、辛悟との関係も……。

■次回予告

次回タイトルは「紅袍賢人」。
今まで何度も名前だけが登場していましたが、ようやく紅袍賢人ご本人の登場です。
江湖を引退して久しい彼のもとを、あの二人が訪ねます。そしてバトル回です。

乞うご期待!

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