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短篇小説の書き方について

 自分なりの短篇小説の書き方をまとめます。今回投稿した「限界世界」という短篇の容量は、原稿用紙換算で11枚。ショートショートの部類に入るかと思います。まず、アイデアは乙〇くんの不倫騒動のニュースから浮かびました。四肢のない人間のセックス。江戸川乱歩の小説にも「芋虫」というのがありますし、なかなか小説に使えそうだな、と。
 ショートショートにおいてはアイデアの比重が非常に高いように思われていますが、じつのところアイデアをどう魅せるかのほうが大事だと考えています。アイデアに比重を置きすぎると、アイデアがほかの作家さんとかぶった場合に惨事が起こります。アイデアはそもそもかぶるもの。自分が考えつくようなことはほかの人間も考えつくのです。アイデアの魅せかたに比重を置いて、そこで個性をだすようにしたほうが建設的です。たとえばタイム・マシンという素材を使って物語を作っても、H・G・ウエルズと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では違った面白さがありますよね。そういうことです。そしてなにより、アイデアを魅せる技術がつけば、アイデア自体は陳腐なものでも小説に仕上げることが可能になります。
 アイデアをどう魅せるか、というのは、具体的に云えば舞台立てと登場人物をどう配置すると効果的にアイデアのおもしろさを伝えられるか、ということです。
 まず舞台立てですが、短編小説の場合、舞台は可能な限り小さく限定させる必要があります。映画「12人の怒れる男」はミステリーですが密室劇として最初から最後までひとつの部屋だけを舞台に作られています。あれとおなじです。短い尺の小説ですと、場面転換をころころ入れるとそこで文章のテンポがぶつ切りになる、情景描写を再度入れなければならず冗長になるなどの弊害が出ます。本作「限界世界」ではほぼずっと「車の中」という密室だけで物語を進行させています。短篇小説のキモはいかに狭く小さな舞台のなかで、大きなバック・グラウンドを表現しきれるか、だと思います。
 さらに登場人物の配置ですが、短編小説の場合、登場人物はすくないほうが都合がいい。しかしひとりではいけません。初心者の小説で登場人物が自分ひとりだけの一人称小説がありますが、あれほどひとりよがりで退屈なものはありませんから。最低、ふたりいなければ、小説にならない。そして配置する登場人物は可能な限り対照的なキャラクターを配置するのがコツです。「正義」と「悪」。「右翼」と「左翼」といったように、立場のちがうふたりを小説に放りこむと、その対話だけで小説が成立します。あるいは「チビ」と「ノッポ」。「バカ」と「利口」のような関係も互いの個性が際立ついい配置です。スタインベックの「ハツカネズミと人間」の主人公、ジョージとレニーは小男と大男のコンビでした。あるいは漫画「絶望先生」は世界一ネガティヴな男と世界一ポジティヴな少女が出会うことから物語が始まります。これらも作者がキャラの対比を意識した結果のことでしょう。本作「限界世界」でも、乱暴な口調で人間臭い「水天宮大臣」と慇懃で無機質な「子安秘書」のやりとりで物語を進めています。アイデア。ストーリー。舞台。登場人物。これらの歯車がうまくかみ合えば、小説は自然に動き出します。機械を組み立てるイメージです。
 最後に、物語の舞台や登場人物のプロフィールを作り込んでから小説を書きはじめる人がいますが、自分はそれをあまり意識していません。しなくてもいいと思います。あまり設定だけ作り込みすぎると、こんどは物語や文章がそれに引きずられて小さくまとまってしまいますので。とくに文章がいちばん大事です。文章が大事にされていない小説は読んでいて悲しくなります。設定に引きずられず、ジャズの即興演奏のように奔放に楽しんで書くのが大事です。書いていて楽しくないものは、読んでも楽しくはないですから。

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