「ああ……俺は何と無思慮な人間なのだろう。おとなしく誰にも迷惑をかけずに暮らしていこうと思っていたのに、ここでの辺境生活に慣れたのがマズかった。そのせいで、心に余裕ができちゃってたんだろうな……」
「今投稿している内容とまるでリンクするような、タイムリーな出来事ね。影響されやすい性格なのは分かっていたけど、自分の小説にまで影響を受けなくてもいいのよ?」
「でも、起こってしまった現実は変えられない」
「そうね。取り繕うことはできたとしても、それは結局あなたがその罪の呵責から逃れ、自分を楽にするためのもの。それで過去が消せる分けじゃないし、どこまで行っても他人の本当の心を知ることはできないんだから」
「…………」
「条件反射とまではいかないけれど、繰り返し反復した過去の経験が、あなたの無思慮を担っている可能性はある。たとえば、キャラクターたちがレベルアップ時に、予想以上に順調なパラメーターの伸びを見せたのに、ツメを誤るあなたはマップクリア直前で、大切な仲間を1人失ってしまう」
「それってもしかして――」
「そう。あなたの大好きな『ファイアーエムブレム』で良く見る光景よ。その時あなたは自分の無思慮を後悔するけれど、その実そこに本当の真剣さはない。だって、時間を含めた代償を払いさえすれば、すべては無かったことにできるから。ゲームにはセーブポイントからやり直すという、そこに本当の真剣さを求めない、ぬる過ぎる機能が備わっている」
「…………」
「もちろんあなたは現実とゲームの区別がついているし、現実にリセットがないのも分かっている。でも、だからといってそこに本当の真剣さがなければ、ゲームでの経験はまったく生かされない。だからあなたはゲームで何度もそれを繰り返すし、現実でもそんな出来事が起きてしまうの」
「…………」
「ゲームが無価値だなんて思わないし、そこから得るものだってあると思う。だけど、誰もが納得の答えを得られるよう調整されている以上、繰り返しその世界に浸り続けることで、熟慮がおろそかになり責任感が薄れてゆく可能性は否定できない。現実への影響がないとは言い切れないのよ」
「…………」
「真剣に力を得ようと思わない限り、人が力を手にすることはない。今回起きた出来事を教訓にして、真剣に生きるとはどういうことなのか。その辺りをじっくり考えるべきなんじゃないかしら?」
「うぐっ……」
「その歳にして、ようやくそんな壁にぶち当たる羞恥は捨てなくてはならないわ。だって小器晩成という難病を抱えるあなたの小さな小さな器が完成するのは、今世も超えたもっともっと遥か未来のことなんだから」
「遠いなぁ……。でも、近道がないのが人生。小説を綴るように、少しずつ積み重ねていくよ……」