「前々回、不吉なことを言ったから、読んでくれてた人が来なくなっちゃったじゃん!」
「あなたが気にし過ぎて神経質になってるから、私はいないものと考えなさいと言っただけ。だいたい、面白ければ来るなと言っても人は集まる。要はあなたの小説に求心力が無いという現実が、浮き彫りになっただけでしょう?」
「うっ……」
「それに『トゥルーエンド』を公開した時点で、遅かれ早かれ同じ結果になっていた。あんな展開を途中で差し挟む物語に、まともなストーリーは期待できない。そう思われても仕方がないのに、あなたは無理やりアレを断行した。それはもはや自己満足の押しつけ以外のなにものでもない。あなたはすべての人に自ら絶縁状を叩きつけたのよ」
「そんなことはない! エピソード内にも補足はあるけど、あの展開は物語にとって必然性があったんだ!」
「ないわね」
「うぐっ……」
「省こうと思えばアレは省けた。あなたの選択は、もともと狭い小説の間口を、更に圧縮する結果を生んだだけよ」
「…………」
「でも、あなたは知っているかしら? 脳には現実を解釈する機能しかないということを」
「……それはどういうこと?」
「たとえば、あなたが物を取ろうと手を動かした時、それはあなたが手を動かすよう脳から指示を出したんじゃなくて、先に動いた手の解釈を脳があとづけで行っているの。つまりは行動が先にあって、脳は合理的な解釈をあとから加えているということ」
「って、そんなバカな!?」
「バカなと言われても、それが真実なんだから仕方がない。そして、そうだとすると、あなたが需要のない小説を書いた事実も防ぎようがなかったのかもしれない。先ず行動ありき。書き上がった小説をどう解釈しようが、その事実は変わらないんだから」
「ちょっと待って! それって肉体的な脳の性能に関する見解だろう? でも人間の本質は肉体には無い。魂に宿ってるんだ!」
「……なんて小説は、誰も興味ないのよ。現実に即した、人の理解できる物語を皆は読みたがっているの。魂をテーマにしながら、物語を破たんさせるギャグを織り交ぜ進む展開は、人の理解を超えている。それはあなたの魂が書かせているの? だとしたら魂にお願いしなさい。もっと誰もが興味を抱くものを書かせてくださいとね」
「うぐぐっ……」
「ああ、でも、たった1人だけこの小説が面白いと感じる人がここにいるじゃない。それだけで、あなたが小説を書き続ける意味はあるわ」
「……だとしたら、公開する意味ないじゃんっ!」