• 異世界ファンタジー

最後の近況ノート

「1つサバを読んでたから、これでストックが尽きるわけだけど、この投稿が終わったら小説メインに切り替えるんでしょう?」
「…………」
「切り替えるのよね?」
「……切り替えない」
「えっ?」
「切り替えられるわけがない!」
「…………」
「小説の下書きは相当先まで終えている。だから俺の投稿とは、手直し、読み直し、手直し、読み直し、1つ飛ばして読み直し。そんな作業のような工程だ」
「持って生まれた劣悪なスペックのせいで、あなたが嫌になるくらい、それを強いられるのは知ってるわ」
「その通り。あまりに読み返し過ぎて、もう何が正解かも分からない。そんな迷いと苦悩の中にあって、それでも俺は胸に頭に様々な思いを抱く……」
「人は思考を制御できない。世界が時を刻み続ける限り、それは当たり前の話でもあるけどね」
「でも、だったらその時抱いた俺の思いはどうなってしまうんだ? 虚無の世界に押し戻せというのか? そんなことできやしない。それは俺から生まれた、大切な俺だけの思いだからだ。誰にも受け止めてもらえないそんな思いを、俺はノートにしたためる。近況ノートにしたためる。そうすることで、俺と俺の思いが救われるために……」
「その思考の帰結には、1つ大きな問題があるわ。その思いが小説に寄り添ってるうちはまだいい。でも、そんな風に自分を甘やかし被害者ぶって思いを綴っていれば、いつか枠からはみ出して、何のメッセージ性もない空虚な自己満足の解消になってしまう。それは受け手を不快にさせるだけだし、せっかく設けられた場の意図を乖離したものになる。そこをあなたは理解しているの?」
「…………」
「報われず朽ちてゆく思いなんて、世界にいくらでもある。言葉にもできず、伝えるすべもないまま消えしまう……そんな思いだってあるのよ? それを差し置いて、あなたがノートにぶつけようとしているのはそれほど重要なものなの? 絶対に伝えなくちゃならない思いなの?」
「……いや、そこまでは考えてなかったけど――」
「だったら考えなさい。少なくともあなたはね。現状、ここはコミュニケーションツールとしても機能していない。そんなところで思いを書き綴っていたら、ただの落書きノートになってしまう。それを続けても誰も得なんてしないわ」
「…………」
「繋がるべき縁があるなら、時が満ちれば実を結ぶ。あなたはアクションを起こしたんだから、あとはそれを待つしかない。そして、あなたがすべきことは、ここでくすぶっていることじゃない。たとえ作業の繰り返しになっても、より良いものを届ける努力を続けること。それだけなんじゃないかしら?」
「…………」
「努力しても報われない。そんなことを口にする人もいるけれど、私はそうは思わない。ひたむきに続けた努力の先で、結果が得られないわけがないから。ただ、望みの報いを得るためには長い時間がかかるもの。生きてる間にそれは成就しないかもしれないけど……」
「だったら――」
「だったら、努力を止めちゃうの? 努力の結果は努力したあとでないと見れないのよ?」
「うっ……」
「人の一生はいつ終わるか分からない。そして、その最後は明日なのかもしれない。もし、明日あなたが死ぬと分かったら、小説を書くのを止めちゃうの? だったら今すぐやめなさい。それは本当にあなたがしたいことではないから」
「…………」
「結果を得ようという思いは人を動かす原動力になるけれど、そのための今の努力に疑問を感じるなら、その生き方は間違っている。あなたが本当に生きているのは、今この瞬間なんだから。人生は常に途上で終わりを迎える。そこを後悔で終わらせないためにも今を大切にしなくてはならないの。……どうする? 今すぐ小説を書くのをやめる?」
「……やめない。俺は明日死ぬとしても、その瞬間まで小説を書き続ける!」
「ウフフ。あなたの紡ぐ物語が誰かに必要なものなのだとしたら、それは必ずその人に届く。世界の仕組みはそうなっている」
「…………」
「ただ、誰も必要としてない可能性も、ゼロではないけどね」
「うぐっ……」
「だけど、あなたは挫けてはならないわ。あなたの物語は決して挫けない人たちが織りなす物語なんだもの」
「……そうだね。物語のキャラクターたちに過酷な運命を背負わせながら、俺が心を折っていたら本末転倒だ」
「そう。その努力を続けることこそが、そこに説得力を生むし、何よりあなたは苦難に立ち向かい、それを乗り越えることが人生だと思ってる。だったら、それを裏切ってはならないわ。あなた自身、あなたが信じる世界の一部でもあるんだから」
「……なんかまるで、最終回みたいになっちゃったね」
「最終回よ」
「えっ? それはつまり――」
「あなたはもう二度と近況ノートを書かずに、小説に没頭するということ」
「そんなっ!? だったら、読んでくれてる人と、どうコミュニケーションをはかったら――」
「だから、それは今考えるべきことではないでしょう? 来たるべき時に考えればいいことよ」
「でも、それっていつの話? 何を目安にしたらいいの?」
「そうね。フォロワー100人。それを指標にしましょうか?」
「そんなの無理! それじゃあ、本当に最終回になってしまう!」
「いいえ。きっと集まるわ……あなたがおじいちゃんになる頃には」
「それって、いったい何十年後なの!?」       ……fin

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