「前回あまりに長くなりすぎたから、いくつかスルーしたことがあるんだけど?」
「聞こう」
「……ずいぶん上からの対応ね。まあいいけど。文章の修正についてだけど、大幅に改稿したのはプロローグだけよね? あれで本当に大丈夫なの?」
「ああ、それなら心配ないよ。他はちょこちょこ修正してたけど、あそこだけが手付かずで残ってたんだ。指摘されるまでマズさに気づかなかったけど、今読み返しても最悪な文章だというのは分かる。やっぱり、人に評価されるのは重要だと分かったよ」
「まるで完璧に手直しできた口調だけど、それはいいわ。私が言ってるのは『髭男爵』の冒頭部分のことよ。はっきり言って、あの山のくだりは不要だと思うんだけど?」
「くだりがなければ、山から降りれないじゃないか?」
「…………」
「いやいや、冗談です。あれは一応伏線になってるから、省くことはできないんだ」
「伏線? あれが伏線になってるなんて、今後の展開に頭を抱えるメダパニ発言ね」
「ずいぶん先の話だけどね。でも、子気味いい曲調じゃないかな? クックロビン音頭のように流行ればな~なんて」
「その発想がアラフォーオッサンね。確かにクックロビン音頭は、一時代を築き上げたけど、その栄光を知るものはもう何処にもいない。着想が古過ぎて、あなたは今の時代に対応できてないのよ。それにあのワードは小島よしおが既に使ってるし、未だにそれをしゃぶり続けている。そんなものの二番煎じが流行るわけないでしょう? 味のない出がらしの白湯を飲んで喜ぶ人はいないんだから」
「うっ……」
「若さを取り戻すことはできなくても、発想の柔軟さを失くさず生きることはできる。歳の割にたいした知識も詰め込まれてないんだから、それをひねり出す概念の隙間は山ほど持ってるでしょう?」
「うぐっ……」
「ここで取り上げてしまったし、戒めの検証事案として改稿せずに残すのは認めるわ。でも物語は細部にまでこだわってこそ厚みが出てくる。ジャンルが緩いからなんていう逃げ口上を後ろ楯にしているのなら、あなたについてきてくれる人は誰もいなくなるわよ……今もいないけど」
「うぐぐっ……言ってることはよく分かる。でも、まさかこの展開をフォーマットにして、毎回いびるつもりじゃないだろうな?」