或る日小学校から帰宅してみると、玄関の中に茶色の子犬が居ました。
先に話した猫と同様に、コイツも命拾い組です。
コイツをウチの玄関に投げ込んできたのは伯父です。
私の伯父は某有名酒造メーカーの営業をしており、お得意先は居酒屋とか、スナックとか、バー。彼のマーケットとは、すぐに言えば飲み屋街です。
そんな条件があるので、彼は毎夜深酒していて、午前中には起きられない。
当時子供であった私としては、彼の異様な気配が恐ろしくて、嫌いな伯父さんでした。
でも、素の彼の事も知っていました。
人当たりが良くて、好奇心が強く、多趣味で屈託も無い。
オモシロそうな事にはすぐに手を出すので話題豊富で、営業として優秀な方だったのであろうとも思います。
そんな彼が頭を突っ込んでいる先のひとつに犬のブリーダーさんの団体も有ったのでしょう。たまたまそこに行き会った時に、とある子犬の話題が出たようです。
姿は良いが、気性が脆弱だからこれは薬殺しよう。
少し後の未来にウチの玄関に投げ込まれる子犬の話です。
彼らは、とある子犬について、イケ犬だけど、コイツは気が小さいからぶっ殺そうとか言っている訳です。
話題の子犬と同様に気の小さい伯父は、それでも優しさは地球以上の質量を蓄えている人だったので、そんなことは許さん!とばかりに件の子犬を掻っ攫ってきたのですが、さて、どうするか?
伯父の趣味の一つに鴨猟なんかもあったので、彼の家には相棒の猟犬が居る。そのまま不遇の子犬を持ち込む訳にはいかない。
驚くべきことに、犬も「面子」が魂と=(イコール)だったりするので、伯父は大切なアイツの顔を潰すわけにはいかないという判断の元に、死にぞこないの子犬をウチの玄関に放り込みました。
犬を飼うなど想定した事も無い、ウチの両親でしたが、丸々ふくふくしていていかにも可愛らしい子犬の容姿にノックアウトされて、ウチに置こう!決めたようでした。
アイヌ犬の姿はおおよそ秋田犬に似ています。
中型犬で明るい茶色の体色、太めの四足と厚い胸板。腰に行くほどシャープに引き締まっている体格には隙が無い。そして勢いよく巻き上がったふくふくした可愛い尾っぽ。
でも、…顔つきが決定的に違います。
秋田犬は犬にしては涼しげな切れ長(風の)イケメン的に目元がきりりとカッコ良く引き締まっている。。
それに比べてアイヌ犬はポカンとした真ん丸目。馬鹿丸出し風。
なるほど。
馬鹿じゃなければヒグマ相手にタイマンなんか張れねェよな?
一応はヒグマと対等に渡り合える唯一の犬種のようです。
気性は“獰猛”ということになっていました。
でも、そんなことはなく一生を過ごして欲しいけれど。
幸いウチの犬はポカンとしたまま一生を終えたので、まずは目出度しでした。