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花咲かぬ春

 うちの近所にお屋敷がありました。
 家が桁外れに大きいと言うわけではなく、前庭がとにかく広い。池があって、太鼓橋なんかもある。
 花のつく木々が庭に植わっていて、毎春はソメイヨシノ独特の儚げな花色と同時に、肉々しい木蓮の眺めを勝手にお裾分けいただいて嬉しがっていましたが、今年は、もう、その禍福は無い。
 昨日、重機でもって平らにならされたお屋敷の敷地を見ました。
 今やお屋敷の姿は影も形もありませんし、お庭の木々も機械の塊りにアタックされて、無残な有様でした。
 ああ、終わりってこんなものなのだなと、思いました。
 肝腎のお屋敷がどうだったのかと言うと、多分、建設当時の最先端のデザイン?
 広大な庭の奥にあったので、よく見たことがないのよね。
 そこに住んでいた人々の姿を見たという記憶も無い。
 廃墟然としてから、たまに家の手入れのために出入りしているらしい老人を見かけただけ。
 彼がいなくなったのでしょうか。
 真相は謎です。
 こんな風に時が行き、過ぎてしまのなら、いずれ消えゆくあたしらは、何があろうと、楽しまなきゃ、丸損なのかも知れません。

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