そこは夢でも何でも何でなく、普通に存在している店。
水出しコーヒーが名物の全国チェーンの店。
仕事前にはホットミルクを一杯注文して、仕事終わりにはコーヒーを一杯。私の腹具合によっては、クラブハウスサンドを注文する。追加で温玉オーダー。
我儘な私のために親切に対応してくれる。そんな店。
ある時。仕事終わりにうだうだ。たいていは本を読んでいる。その時読んでいたのは何かは覚えていない。(10年以上前の話)気になる話が耳に飛び込んで来た。
別に他人の話に聞き耳を立てていた訳では無い。
なぜそうなのかは分らないけど、ゲゲゲの鬼太郎的に妖怪アンテナが立っちゃう時があるのよね。
その時に私が注目したのは、20代の男性と、彼担当のケースワーカーの人らしき40代の女性(当時)。二人は深刻に話し込んでいる。
彼の話は大変興味深かった。
彼の勤務先はどうやら工務店。一戸建てか或いは集合住宅のリフォームをしていたよう。その最中に何らかの障害が起って、彼は一時的に仮死状態になった。
救急搬送された先で“死亡者”との判断を下されて、霊安室へ。
彼がパッと目覚めた時、朱色の小さなランプの明かりだけ、分かったそうです。
次に、自分が素裸の状態で水に浮かんでいることを自覚した。
その次には、自分の隣に居るのは死体であることが分った。
びっくりして跳ね起き、部屋の扉を開けて飛び出そうとしましたが、開かない。もう、半狂乱になってドアをノックし続け、手が血まみれになったそうです。
両手が血まみれになって、諦めかけそうになった頃に扉が開かれ、彼は無事にこちら側に帰って来たそうです。
彼と一緒に居た年配の女性は、そんな彼のトラウマを解消するためにそこに居たカウンセラーさんのようです。
彼は臨死体験などしていない。
ぱっぱっと場面転換しか経験していない。そうですね。
彼の最後の言としては、まず、自分が死ぬと想定して話をしたことは一度も無い。(それ、正常。気にするな)
そう言っていました。
次に、自分自身が居なくなるなど、大変にショックである。
なら、今一緒に暮らし始めた彼女にとってはどうだろう?
想像もつかない。
だから、命を大切にして生きていきたい。
名も知らぬ彼はそのように話していました。