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後書き『ひいらぎもどろき祓い ねぶらまの棺』

ひいらぎもどろき祓い ねぶらまの棺
https://kakuyomu.jp/works/16817139555364958941

 締め切り前の六日間中、四本ぐらいエナジードリンクをキメながら必死で脱稿した本格Jホラー小説、無事に完結&締め切りに間に合いました。
 ここからは楽屋裏だ!

【本作のコンセプト】
 さて、恐怖を描く上で「死」というテーマはよく取り上げられます。私がホラーの産湯と思っている心霊ADV『死印』(今年12月続編発売!)も「死の定めを突きつけられた者たちが、生き残るため怪異に挑む」というお話です。
 現実を生きていく以上、我々にとって永遠に解けない謎ながら、誰にも確実に起こりうる現象だからこそ、人は死を恐れます。
 しかし、誰にも訪れるということは「死は自然な状態」です。
 一方で恐怖をもたらす怪異は「超自然の存在」です。
 ただ死ぬだけでは生温い。その死に方がいかに悲惨であろうと、死後なんらかの苦しみに囚われるとしても。であれば、「いかにキャラクターを生殺しにするか」を考えたほうが、よりおぞましくなるのではないか?
 というわけで「怪異とか呪いってのは、人を殺さないんですよ」というコンセプトが出来上がりました。例外として、神さまは祟りや神罰で人を殺せますが、それはまた別。実話怪談の怪異も、けっこう殺しませんしね。

【刺青というモチーフ】
 参考文献の所にも書きましたが、私は刺青の刻まれた体にフェティッシュを感じます。それでたまにポチポチと調べていたのですが、刺青は世界中にある文化で、非常に呪術的な側面も持つのに、あまりホラー作品で取り扱われている印象が多くないのですね。私がまだそういう作品を知らないだけかもしれないので、ご存知の方はご一報ください。
 例えば映画『来る。』では終盤、柴田理恵さん演じる霊能者の背中に実は刺青があったよ、と映すカットがありますが、これ自体はキャラクター描写の一環でそこまで本筋には絡んでいません。
 刺青とホラーの組み合わせは、どちらかというと「呪いの証」と扱われている場面の方が多く思います。例えばホラーアドベンチャー『零~刺青ノ聲~』では、ラスボスは〝刺青の巫女〟であり、主人公たちは呪いの進行と共に刺青のようなアザが体に広がっていきます。
 このへん、「罪人への刑罰の一種」という歴史や「ヤクザなど反社会組織の構成員が入れるもの」という多くの認識が作用しているのでしょう。実際、レーザーで除去できるとは言っても費用は高額ですし、「一度入れたら取り消せない」という点ではやはり重たいものです。
 しかし、刺青とは「聖なるもの」でもありました。アウトローなイメージこそあるものの、聖性や呪術性を本作で見せられていけばなあと思います。

【ねんねがら歌】
『零~刺青ノ聲~』に登場する、子供巫女が歌う「鎮メ唄」や、ホラーゲーム『SIREN』の「奉神御詠歌」など、ホラーならやはり不気味な歌が欲しいな~という思いで考えました。文字媒体だけでは聴覚に直接訴えることはできませんが、口に出してみて歌いやすいかどうか確認しています。

【白草米徳の郷土史覚書】
 イメージはホラーゲームの探索シーンで出て来る「民俗学者の手記」とか「新聞記事」とか「○○に伝わる民話」みたいなアーカイブ群。
 ゲーム攻略に必須なものとそうでないものがあるように、書いた人や話してくれた人の主観や記憶違いもあって、誤情報がまぎれこんでいます(雪見野教授の話も同様)。

【キャラクター】
 本作に限った話ではないのですが、ある程度作者の手を離れた部分を取り入れたいので、ネーミングや家族構成にはランダムチャートや自動生成ツールなどを使っています。

●丹村乗
 オタクに優しいギャル(♂)です。美少年から美青年に順調に成長しており、その過程で有象無象のリビドーを向けられて苦労してきた人。
 作中では完全に巻き込み事故で悲惨な目に遭うので、栄養価がとても高いです。
 今回の怪異は「出会ったら終わり」というタイプだったのですが、幸か不幸かギリギリ回避したため、怪異側もバグった挙動をして余計悲惨なことになりました。
 ダメな男に惹かれるのはたぶん母親の血筋由来。
 刺青のモチーフは「龍と牡丹」。鯉が滝を登って龍となる「登竜門」の故事から、龍は立身出世などの意味を持ちますが、乗は格好良いから、で入れました。
 牡丹は百花の王、富貴花とも言われ、こちらも王者の風格、壮麗などを意味し、唐獅子(百獣の王、悪を喰らう)との組み合わせ「唐獅子牡丹」は人気の図案。

●白草八尋
 第一部では儚げな陰キャ風だったが……?
 前作『廃絶すべし、娑輪馗廻(シャリンキエ)』https://kakuyomu.jp/works/16816700428547589844 の主人公、羽咋道眞(はくい・どうま)の初期設定から抜け落ちた陰キャ成分を、今度こそと主軸に据えたキャラです。
 本作を書くにあたって、最初にやりたい! と思ったシーンが、「ピアス一つ開けたこともなく、刺青にも興味のなかった青年が、ハードな刺青を彫る」というものでした。その前に焼き印が挟まったのはライブ感。
 刺青の相場は施術一時間につき一万円、全身となると70~150時間とべらぼうなお値段がかかります。ので、普通は一回2~3時間で月二回通い、数ヶ月とか一年とか二年とかかけて完成させるものなので、作中の「二週間」は彫る方も彫られる側も相当な無茶をしている強行軍です。
 でもまあ谷崎潤一郞の『刺青』では、一服盛った娘さんの背中一面を一日で彫り上げているので、このぐらいの嘘はご容赦願いたい。青空文庫で読めます。

●柊夜志高
 本作のオカルト探偵担当。
「霊能者がホラーに登場するとリアリティラインが下がる」という問題がありますが、夜志高には「刺青を使う必要があるため、基本は受け身」「他の超常能力も持つが、乱用すると神罰を受ける(神さまからの借り物だから)」などの縛りを設けました。ので第一部ではほとんど活躍できていません。
 新興宗教の教祖の末裔という出自のため、ナチュラルに信心深さをすり込まれているが、拝み屋の仕事を継ぐ気はさらさらなし。
 でも持っている数珠は、ひいおじいちゃんの代からずっと受け継いでいるもの。
 俺は刺青の道を究める! と思って日々腕を磨いているのですが、血筋と家庭環境と御誓文由来の能力があるため、結局怪異に悩まされる人を助けてしまうお人好し。要するにヒーローです。
 御誓文はタイの呪術刺青サック・ヤン(またはサクヤン)をモデルにしているので、彼のご先祖様はタイから日本に渡ってきた人かもしれません……が、サック・ヤンはめちゃめちゃ仏教なので、神道である柊家とはやはり別ルーツっぽくもあり。真実は闇の中。
 ちなみに、彼が抱えている禁忌の一つに「人を殺すと神罰で死ぬ」というものがありますが、これは故意でも過失による事故でも問答無用で惨たらしく死にます。
 どのぐらい惨たらしいかというと、田口翔太郎さんのホラー漫画『裏バイト:逃亡禁止』2巻の助勤巫女回(「無惨に殺して」)ぐらい悲惨な死に方をします。
 神さま的には「コラッお前何立てた誓い破っとるんや! めっ!(お仕置き惨殺) 幽世帰って修行しなおしや!」ぐらいの感覚です。
 神さまは約束を破るものに厳しいのよ。

●柊夕起子
 夜志高の四歳上の姉。三十路。
 元々はカフェバーのお姉さんというモブキャラだったが、家族構成ランダムチャートで「姉」が生えたため、そのポジションと結びつけました。バーテンダーと調理師の資格があります。
 容姿のイメージは最高の地元でワルをやっている紅……さん。
 彼女の体にも御誓文が入っていますが、夜志高よりやや軽いものです。それ以外だと、夜志高自身が練習で入れたワンポイントがいくつか。彫師は実践してナンボです。
 彼女がやっていた神がかりは、「神さまを巫女に降ろす」他感法ではなく、自分の魂を異界に飛ばす自感法です。おくりびつに入ったわけではないので、彼女一人なら夜志高が神さまを通して交渉することで呼び戻すことも不可能ではありませんでした。そこそこ大がかりな儀式になりますが……。
 夜志高が18歳の時に両親が謎の失踪を遂げ、以来二人で生きて来たため、姉弟仲は強いです。また、特殊な出自の関係で俗世の人に合わせるのがしんどい部分があり、ついついいっしょにいがち。

●白草米徳/豊
 八尋の父。アーカイブを提供してくれた便利なキャラクターでした。人物造形は、ン十年ぐらい前の創作ノートに書いてあった「豊さん」というキャラで、細かい設定は忘れてしまったけれど、その記憶を元に描写しています。
 弟(八尋の叔父)が息子に古民家くれたり、自宅がそこそこ立派な日本家屋だったり、それなりに実家が太い専業作家。YouTubeで怪談師もやっています。
 連載中のホラー小説は原稿が仕上がったけれど、途中から内容が支離滅裂になっていたため、編集者さんに怒られつつ何とか間に合わせました。

●白草甘音
 八尋の母。息子の親友をとんでもない眼で見ていますが、顔にも口にも行動にも出さない理性はあります。

●善根世伸
 ランダム生成した時の名前は「善根世森」。ぴったりだとは思ったのですが、あまりバンッと決まっているのも悔しいので、下の名前はずらしました。植物が繁茂する様や、呪いがどこまでも伸びていく様をイメージした字です。
 横溝さんに応募するにあたり、いくつかプロットの候補を立てて「あの世が見える棺桶」と「盲愛の霊」の二つからどっちを採用するかで迷っていましたが、没になった後者を彼のサイドストーリーとして採用。
 エピローグの担当も務めており、まさに本作の裏主人公と言えましょう。

【もっと読みたい方】
 本編読了必須! ネタバレ後書き。
https://fusetter.com/tw/VHG8MUaa#all
 上のネタバレ後書きで書き忘れたことが一つ
https://fusetter.com/tw/w8T10ukc#all

 最後に、七守の地図を載せておきます。これは作中に関係あるところだけ抜き出したもので、市内でもっとも奥まった地であり、町内にはあと四つぐらい地区が存在します。コンビニすらないド田舎だよ。

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