10月から始めた本作は、言うまでもなく、小泉八雲先生の『耳なし芳一』をモチーフにしています。
平家の亡霊に取り憑かれ、両の耳たぶを奪われながらも取り殺されなかった盲目の琵琶法師が、その後、どう過ごしたのか?
以前と同じように平穏に琵琶を奏でる日々を送ることができたのだろうか?
たとえそうであったとしても、その音色、語りに魅かれて取り憑いた亡霊によって両耳を失った盲目の琵琶法師は、以後、世間の奇異の目に晒されたのではないか?
そんなことを、以前から漠然と思っていました。
当然、興味本位で琵琶法師を見に訪れる輩も少なくないだろう。
さらには、亡霊をも惹き付けたその弾き語りに、別の妖異も集まるだろう。
そういったところから、『耳なし異聞』の執筆を始めました。
前作『百鬼夜話』『誑斎先生怪談会』と形式は同じですが、これまでとは違った異形のモノを見ていただけるかと思います。
前二作同様、〝無読者小説〟に近い状態ではありますが、こうした小説を好まれる方もいらっしゃるだろう、と己を叱咤しながら、多くの方が御高覧くださることを願っております。