異世界に転生したからといって、必ずしも立派な冒険者になれるとは限らない……! 冒険者という職業が存在しない異世界もあれば、劣悪な環境で捨て石にされて死んでしまうこともある。というわけで今回は皆さまがそんな異世界に転生したときの参考に、異世界で悪いことをしながら裏社会で暮らす人々の小説を紹介しよう。
 暴力を生業として揉め事を見つけては首を突っ込む男、ゴブリンに転生し復讐のために人間すらも喰う男、忍者のスキルを生かしてゴシップ記者になった男、冒険者として平穏な生活を送っていたはずの元殺し屋……。いずれも一筋縄ではいかない人生を送っている男たち……彼らの生きざまが参考になるかどうかはあなた次第だ……!

ピックアップ

この男、暴力に手慣れすぎている……!

  • ★★★ Excellent!!!

 暴力を生業にして長年渡世を送ってきた鉦木裕次郎。そんな彼にも年貢の納め時がやってくる。組織の権力を狙う愛弟子たちに造反され、さらに実の息子にトドメを刺されてしまったのだ。

 そして裕次郎が目を覚ますとそこは異世界。生前に助けた魔女のリンデルの手引きによって若い肉体に転生した彼は彼女のために働くことに。しかし残念なことに、この世界には冒険者などというわかりやすい職業は存在しない。突如世界に出現した身元不明の人間が稼ぐ手段といえばやっぱり……暴力!

 というわけで裕次郎は、人身売買や怪しい薬の販売など異世界で行われる生臭い商売をかぎつけては首を突っ込んでいくのだが、そのやり口がエグい! 時には何も言わずに奇襲をしかけ、時には詭弁を弄し正当性を確保してから脅迫を行うなど、その場に最適な手段で悪党相手にペースを握っていく。この暴力を背景にしてその場の空気を掌握するやり口が非常に手慣れていて鮮やかなのだ。

 また、肉体こそ若くなった裕次郎だがその身体能力はあくまで一般人の延長線上。投石を受ければ骨は折れるし、薬を盛られれば昏倒してしまう。だからこそ、その肉体から繰り出される暴力の一つ一つが生々しい……! 地に足の着いた暴力で異世界をのし上がる、いろんな意味でワルい主人公の魅力が存分に味わえる一作だ。


(「異世界版 裏社会の歩き方」4選/文=柿崎憲)

ゴブリンに転生した男は復讐を誓う……たとえ何を喰おうとも!

  • ★★★ Excellent!!!

 駆け出しの冒険者シルヴァは仕事の依頼をしてきた勇者パーティに裏切られ、ダンジョンの探索中に死亡する。強い恨みを持って死んだ彼は生前の記憶を持ちながらゴブリンに生まれ変わる。

 前世では勇者に搾取されたシルヴァだが、ゴブリンに生まれ変わっても世知辛い境遇は変わらない。上位の魔物であるオーガに食料を集めてくるように命じられ、必死に森で獲物を探す日々。この調子では勇者への復讐は夢のまた夢……と思いきやゴブリンという種族はある特殊な力を持っていた。それは捕食した相手のスキルを奪うというもの。そしてその力は魔物だけではなく人間相手にも発動し……。

 シルヴァは強くなるためなら手段を選ばず、相手が人間だろうとためらわずに命を狙う。人間と同じ知性を持ちながら、この倫理観のなさが本作の大きな特徴。また知恵を活かして格上の生物を捕食して成長していくのがこの種の作品の醍醐味だが、本作はシルヴァだけではなく仲間のゴブリンも成長していき、強力な群れとなっていくのも良い。

 どんどん成長していくこの凶悪な集団が今後世界にどのような被害をもたらすのかぜひ注目していきたい。


(「異世界版 裏社会の歩き方」4選/文=柿崎憲)

忍者のスキルを活かして特ダネをつかまえろ!

  • ★★★ Excellent!!!

 就職活動の成功を願って神社にお参りにいった甲賀錬は、色々勘違いした神様によって見事職業(ジョブ):忍者を与えられ、そのまま剣と魔法の異世界に送り込まれてしまう。違う、そうじゃない……。

 右も左もわからぬまま甲賀は冒険者ギルドで条件の良さそうな仕事を引き受けるが、実はそれは詐欺で危うく死にかける羽目に……。怒りに燃えて告発文を認める甲賀だが、その文章が偶然雑誌の記者の目に留まり、記者としてスカウトされる……のだが、その雑誌名が「実録タックルズ」。見出しには「勇者様、深夜のご乱行」「人妻がいるあのお店」「看板娘の口説き方、教えます」なんて文字が立ち並ぶ……胡散臭い……。

 そんなこんなで主人公が異世界でゴシップ記者になるというなかなかレアな本作品。雑誌の内容こそ下世話だが記事を書くために、話題のお店に取材に行ったり、貴族の会合に張り込んだりと、お仕事の内容は結構真面目で、怪しいタイトルとは裏腹にきちんとしたお仕事ものになっている。一緒に仕事をする先輩が頑張り屋さんで可愛らしいのもうれしい。時には殺人鬼と対決したり、誘拐犯を追いかけたりと危険な任務もあるが、そこは忍者のスキルで乗り越えろ! 


(「異世界版 裏社会の歩き方」4選/文=柿崎憲)

「お前が盗んだのは馬じゃない。アダム・アーティの馬だ」

  • ★★★ Excellent!!!

 A級冒険者パーティで盗賊として活動するアダム。その仕事ぶりは完璧で、仲間すら気づかぬうちに、こっそりモンスターを倒してひそかに罠を解除していく。しかしその完璧さが仇となり、仲間たちからは何もしていない無能のレッテルを張られ、パーティを追放されてしまう。

 それだけならまだ良かったのだが、そのパーティの奴らはアダムの家を襲撃し、彼の家の財産、そして彼が大切にしていた馬を盗んでしまった……! この出来事をきっかけに引退したはずの伝説の殺し屋――アダム・アーティ――が再び闇に舞い戻る……!

 キアヌ・リーヴス主演の某殺し屋映画のオマージュ要素が強い本作品は、元殺し屋による壮絶な復讐劇。伝説とうたわれた男が単身でマフィアや雇われた殺し屋を容赦なくなぎ倒していく姿は圧巻。どれだけ強い殺意を浴びせられようが、ほとんど感情を見せずに淡々と冷酷に返り討ちにしていく姿がたまらない。

 また元ネタとなっている映画の名シーンを異世界風の描写で様々に再現しているのも遊び心が利いていて面白い。


(「異世界版 裏社会の歩き方」4選/文=柿崎憲)