この男、暴力に手慣れすぎている……!

 暴力を生業にして長年渡世を送ってきた鉦木裕次郎。そんな彼にも年貢の納め時がやってくる。組織の権力を狙う愛弟子たちに造反され、さらに実の息子にトドメを刺されてしまったのだ。

 そして裕次郎が目を覚ますとそこは異世界。生前に助けた魔女のリンデルの手引きによって若い肉体に転生した彼は彼女のために働くことに。しかし残念なことに、この世界には冒険者などというわかりやすい職業は存在しない。突如世界に出現した身元不明の人間が稼ぐ手段といえばやっぱり……暴力!

 というわけで裕次郎は、人身売買や怪しい薬の販売など異世界で行われる生臭い商売をかぎつけては首を突っ込んでいくのだが、そのやり口がエグい! 時には何も言わずに奇襲をしかけ、時には詭弁を弄し正当性を確保してから脅迫を行うなど、その場に最適な手段で悪党相手にペースを握っていく。この暴力を背景にしてその場の空気を掌握するやり口が非常に手慣れていて鮮やかなのだ。

 また、肉体こそ若くなった裕次郎だがその身体能力はあくまで一般人の延長線上。投石を受ければ骨は折れるし、薬を盛られれば昏倒してしまう。だからこそ、その肉体から繰り出される暴力の一つ一つが生々しい……! 地に足の着いた暴力で異世界をのし上がる、いろんな意味でワルい主人公の魅力が存分に味わえる一作だ。


(「異世界版 裏社会の歩き方」4選/文=柿崎憲)

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