超能力という言葉を最近見かけなくなっている気がする。気づけばいつのまにやら少年少女の持つ特殊な能力は『異能』とラベリングされてしまい、超能力という言葉は古臭いとか胡散臭いとかスプーン曲げてそうみたいな偏見で見られてはいないだろうか? だが超能力は決してダサい言葉じゃない。ライトノベルのとある人気シリーズだって異能力者じゃなくて、ちゃんと超能力者という言葉を使っている。
 そういったわけで、今回は超能力特集だ。急に発火能力に目覚めたクラスメイトを生暖かく見守る男子高校生たちのコメディ、超能力に目覚めた少女が連続殺人鬼と対峙するサスペンス、スプーン曲げしかできない少年が異世界に送られるファンタジー、過去に戻る力を持った少年が闇が深い少女たちにつけ狙われるホラーなど、様々なジャンルを取り揃えたぞ!

ピックアップ

同級生が超能力に目覚めても、ボンクラ男子の日常は変わらない。

  • ★★★ Excellent!!!

 ある日、授業中に火炎放射能力に目覚めた男子高校生の沢村。彼の力を狙い、他の能力者たちや秘密組織が動き始める……のだが、本作の主人公はこの沢村ではなく、彼のクラスメイトの後藤である。

 この後藤が友人とともに沢村の今後の扱いについて話したり、沢村の戦いを野次馬しにいったりするのだが、そこで交わされる会話のボンクラっぷりが実に心地良い。クラスメイトが超能力に目覚めたのに、校庭に野良犬がやってきたぐらいの温度感で話が進むし、沢村の超能力、通称『沢村キネシス』について考察を始めても、すぐに話題が脱線してどこまでいってもシリアスにならない。でもこのどうでもよさそうな会話の流れが非常に男子高校生らしくて楽しいのだ。

 また一応話題の中心になる沢村が結構平凡な性格なのに対して、中二病要素が非常に強い他校の能力者や、暴力の行使に一切ためらいのない手芸部員など、脇を固める女子が非常にインパクトの強い設定と性格をしており沢村よりも遥かに印象に残る。

 結構大きな事件も起きているのだけど、そうは感じさせない軽妙な語り口と他愛ないけれど愉快な会話、そして変なキャラたちの魅力でグイグイ読ませる独自の魅力を持った力強いコメディだ。


(「覚醒する力……! 超能力特集!」4選/文=柿崎憲)

小学生、連続殺人鬼、異能力者集団……複数の思惑が乱れ交う群像劇!

  • ★★★ Excellent!!!

 思春期の少年少女が通称『中二病』と呼ばれる特殊な力を発症するようになった世界。小学生の北原霧子は『中二病』に発症し、「他人が過去に人を殺した人数が見える」という能力を手に入れてしまう。そしてある日偶然すれ違った少年の頭上に『6』という数字を見つけた北原は、その少年こそが巷をにぎわせている連続殺人鬼『指切り』ではないかという疑いを持つ。だが、実はこの少年もある『中二病』の力を発症しており……。

 人を殺したことを感知できる少女と特殊な力を持った連続殺人鬼……これだけでも変則ミステリーとして充分面白くなりそうな設定だが、本作はこのまま探偵VS殺人鬼というシンプルな展開とはならない。彼ら以外にも、双子の『中二病』患者、『中二病』患者を隔離する政府に対抗しようとする秘密結社、その秘密結社を裏切った者など、様々な能力者の思惑が混じり合い、物語は混沌とした群像劇の様相を呈していく。

 大したことのなさそうな能力が意外な使い方でとんでもない被害をもたらしたり、思わぬところで小説ならではのギミックが仕込まれていたりと、随所に驚きの種を仕込みつつも、もつれあった人間関係がラストに向かって綺麗に収束していく構成は実に見事。特殊ミステリー、そして群像劇が好きな人には自信を持って進められる一作だ。


(「覚醒する力……! 超能力特集!」4選/文=柿崎憲)

スプーンしか曲げられないのに、やたら世間の評価が高い……!

  • ★★★ Excellent!!!

 トラックに轢かれ異世界に転移してしまった暁念動。特にチート的な能力は会得しなかったが、彼は元から優れた能力を持っていた。それは……スプーン曲げ! これは単なる念動力では一味違う。なにせスプーンの形をしていれば材質が木でも異世界最硬のアダマンタイトであっても綺麗に曲げられるし、彫刻にすることだってできる。凄い! しかし、この能力は『スプーンのみ』にしか効果を発揮できないという欠点が……やっぱ微妙だな!

 かくして生活のためにスプーン曲げを使った大道芸で稼ごうとする念動だが、魔力を一切使わずに物体を変化させる力を持った者が現れたことで、一気に念動は注目の的に。英雄の生まれ変わりだと噂され、『魔封殺し』(マジックブレイカー)という大層なあだ名をつけられ、騎士団から、邪教集団、その教団を狙うエルフたちなど、複数の勢力が念動を狙い始める……スプーンを曲げることしかできないのに!

 大したことのない人間が過大評価された結果、どんどん話が壮大になっていくのは勘違いもののとして鉄板の面白さだが、本作はそこで終わらずに、スプーン曲げ、そしてパフォーマーとして鍛えた話術を駆使して、念動がしっかり活躍していくのも実に面白い! 小さなネタを大きく膨らませた楽しい一作だ。


(「覚醒する力……! 超能力特集!」4選/文=柿崎憲)

やり直すたびに泥沼にハマるリセット地獄……!

  • ★★★ Excellent!!!

 幼いころに両親を事故で亡くし、絶望の中で死のうとしていた蛙屋啓太は偶然居合わせた双子の姉妹に助けられる。現在では中学生となり、彼女たちと楽しい日常を過ごす啓太だが、ある日の放課後の屋上で、『黒子』と名乗る少女と出会ったことをきっかけに、その日常はあっさりと崩れ始める……。

 本作の最大の特徴として、ヒロインたちがめちゃくちゃ不気味で怖い……! さっきまで普通に話していたのに、ちょっとしたきっかけで態度を豹変させ、啓太を物理的にも精神的にも追いつめて来る。

 しかし啓太もやられっぱなしというわけではない。実は啓太は『削り戻し』という力を持っており、時間を遡って自分の失敗をなかったことにできる!……のだが、過去に戻ってミスを修正したはずなのに、なぜか状況は悪くなる一方……この原因を突き止めるため、双子が隠している秘密や『黒子』の正体について調べるうちに次々と衝撃の事実が浮かび上がるミステリー的構成も非常に面白い。伏線の張り方も巧みで、日常の小さな出来事や何気ないやり取りに意外なヒントが隠されており、驚愕のラストに繋がっていく。怖い女の子が出てくるホラーや特殊設定のミステリーが好きな人は必見の作品だ。


(「覚醒する力……! 超能力特集!」4選/文=柿崎憲)