ときには森の賢者としてその知性を敬われ、ときには霊長類最強生物としてその強さを畏れられる、そんな相反する魅力を持った生き物がゴリラだ。生物学的には人間にとても近いゴリラだが物理的には意外と遠い。動物園で檻の中のゴリラを見た人は多くても、実際にゴリラと触れ合ったことがある人は少ないであろう。そんな人間に近くて遠い存在のゴリラだからこそ、他の動物にはない独自の魅力がある。
そこで今回はそんなゴリラの魅力に迫る作品をピックアップしてみた。格闘技のリングの上に立つゴリラ、仲間たちと共に凶悪な魔術師(ゴリラ)に立ち向かうゴリラ、何度も異世界に召喚されるたびに知性を投げ捨て脳筋ゴリラになった男、ゴリラの姿に変えられた魔族の令嬢……これぞゴリラ好きの人々が満足できること間違いないラインナップだ。このバナナを賭けたっていい。

ピックアップ

脳筋ゴリラが超スピードで異世界を救いまくる!

  • ★★★ Excellent!!!

異世界に複数回召喚される主人公はわりといる。結構いる。しかし本作の主人公はその召喚された回数がちょっと多い。その数なんと19回。しかも召喚されて鍛えた能力値はずっと引き継がれ、最初から圧倒的な力を手にしている。それでいて現世で平穏な日常を送りたいのに、事あるごとに異世界に呼ばれて彼のストレスは限界に達していた。

そういったわけで19回目の召喚で彼はついにキレた。かくして知性や倫理は放り投げられ、ただただ思いのままに行動する脳筋ゴリラが異世界に解き放たれたのだ。

この作品とにかく展開が早い。主人公は1話にしてタイトルの心境に至るのだが、既に世界を2桁救っているだけあって正直強すぎるのだ。悪徳貴族だろうがモンスターの大軍勢だろうが魔王本人だろうが、敵対する者は即座に容赦なくボコボコにして毛を毟っていく。自らの行動で異世界のバランスが崩れることなども一切気にしない。即断即決の男である。
しかも物理的な強さだけでなく魔法などもしっかり使えるため、脳筋のくせに搦め手っぽい真似もできる。ゴリラのくせに意外と小賢しい……。

そんな世界最強の男があまりに軽いノリでテンポよく世界を救っていく冒険譚。ギャグを多めに挟んだ小気味いい語り口で、一度読み始めたら途中下車を許さないテンション高めなコメディだ。


(「溢れる野生! ゴリラ小説特集!!」4選/文=柿崎 憲)

霊長類最強の獣がリングに立つ!

  • ★★★ Excellent!!!

ある日弱小格闘技団体のリングに一匹のゴリラが降り立ったことから始まる。ゴリラみたいな男といった比喩表現でもなければ、ゴリラの着ぐるみを着ているというわけでもない。純粋な動物のゴリラである。その名もシン・ゴリラ!……いや、ダメだろ、人間とゴリラを闘わせちゃ……。

しかし、強さが全てのリングの上では世間の常識など通用しない。かくして始まるゴリラ対人間。そして観客は意外な光景を目にする……。このゴリラのファイトスタイル……思ったよりも技巧派だ!

そんなテクニシャンなゴリラがリングの上で強敵としのぎを削る主人公となる超異色の格闘技小説。相手となるのはゴリラ同様に格闘技を学んだカンガルー、そしてシン・ゴリラと因縁を持つ、もう一頭の謎のゴリラ……! うーん、どうかしてる。

しかし本作が本当に恐ろしいのは、先にも描いた通りゴリラを主人公にしてるのに、単純にパワーで蹂躙したりはせず、なぜかちゃんと格闘技をやっているのである。相手の隙をついてタックルを決めたり、関節技を狙ったりする。シュールすぎる世界観だ。そもそもゴリラ同士が昔からの因縁をリングの上で決着つけようとしてるのもどうかしている。そして、最初から途中までどうかしているのに、ラストではそれまでの話の流れを大きく覆すとんでもない展開を仕掛けてくる! これぞまさに空前絶後の格闘ゴリラ小説だ!


(「溢れる野生! ゴリラ小説特集!!」4選/文=柿崎 憲)

ゴリラしかいない世界のバナナを巡る狂想曲

  • ★★★ Excellent!!!

本作は五頭のゴリラが天才魔術師ゴーリラーに隠されたバナナを取り返すために力を合わせ洞窟を探索する、友情とバナナを巡る物語だ。某名作RPGを彷彿とさせるタイトルだが、特に関連はない。

登場人物が全員ゴリラだからこそ成立する頭の悪い会話、恐ろしい罠という名のバカバカしすぎるトラップ、何度も繰り返される天丼染みた地の文、設定の合間合間にどこか感じられる投げやりさ……と、一つ間違えればくだらないだけの作品になりそうなのだが、本作は独特のテンポの良さでこれら全ての要素を絶妙なギャグとすることに成功している。なんというか絶妙なコントを見ているような気持ちにさせてくれるのだ。

文字数も約3000字と短くすぐに読み終えられる。この分量で登場人物が全員ゴリラなので当然深いテーマとか震えるような感動などはない。サラっと読んで楽しく笑って、はい、おしまい。といった感じの作品だ。でも、こういう作品があるのがWEB小説の良いところだと思うんですよ。全部が全部こんな作品ばかりじゃ困るけれど、こういう馬鹿馬鹿しい作品がいつもどこかに転がっていてほしい。そんな気持ちにさせてくれる愉快な一作である。


(「溢れる野生! ゴリラ小説特集!!」4選/文=柿崎 憲)

商人志願の男、ゴリラ令嬢と共に旅へ出る。

  • ★★★ Excellent!!!

商人を目指し、自ら商品を収拾するため迷宮に挑むケビン。そんなある日の探索で、彼が出会ったのは白いワンピースに身を包んだゴリラの姿だった! 突然のゴリラの出現に警戒するケビンだが、このゴリラからはどことなく知性が感じられる。紅茶を淹れるのも上手いし……。

話してみればメスゴリラ――リッカの正体は身分の高い魔族で、人族領を案内しつつ彼女を無事家に送り届ければ、報酬として貴重なレアアイテムをくれるというではないか。かくして商人とゴリラという奇妙な組み合わせの二人旅が幕を開ける。

目利きの才能はあるものの戦いの腕は未熟なケビンが、優れた魔法の使い手であるリッカが二人で旅をする……というストーリー自体はわりと王道なのだが、しかし肝心のリッカの姿がゴリラなのである。丁寧な所作で紅茶を淹れるゴリラ、圧倒的な魔法で敵を焼き尽くすゴリラ、物理的な手段に訴えてもめちゃくちゃ強いゴリラ……うーん、いちいち絵面がシュールだ。でも、セリフだけだと普通にリッカが可愛らしく、そんな正当派なヒロインがきちんとゴリラをやっているというのが本作の大きな魅力。

王道な展開に尖った設定を組み合わせることで、独自性を大きく出せるという好例だ。


(「溢れる野生! ゴリラ小説特集!!」4選/文=柿崎 憲)