わたくし、ラーメンが好きなのですよ。
 お昼ご飯は大概外食ですが、その半分がラーメンです。行動範囲の関係もあって豚骨醤油系をいただくことが多いながら、基本的には濃厚系から淡麗系までもれなく大好き。『すごい創作術ラジオ』というYouTubeの収録時にも、普段行く機会がないラーメン屋さんをいくつか開拓したりしました——そうそう、ラジオを含めた『“すごい創作術”を駆使したら、新人賞は取れるのか!?』企画もちゃんと生きていますので、再始動しましたときにはまたよろしくお願いします!
 とまあ、そんなこともありまして、今月は“ラーメン”を含んだお話をご紹介させていただきたく思います。すでに国民食と言っても過言ではないラーメン、書き手のみなさまはどのようにお話へ取り込まれておられるものでしょう? どうぞご賞味くださいー。

ピックアップ

異世界でラーメン屋さんに曰くつきの結婚を申し込まれたお話

  • ★★★ Excellent!!!

 人生の酸いを噛み締め、猫背でとぼとぼ歩く帰り道、美容師志望の松ヶ谷きよのは馴染みのラーメン屋台で息をつこうとしたのだが。いざラーメンを食そうとしたそのとき、丼の底に“狐”を見た。そして気がつけば見知らぬ場所にいて、普通に見えて狐耳を生やした普通ならぬ男性から唐突に結婚を申し込まれるのだ。彼の名は紫水(しすい)。職業は“月の側”なる異世界のラーメン屋!

 いきなり結婚を申し込まれたきよのさんはもちろん突っぱねて、元の世界へ戻るためにがんばります。でも、それにつれ結ばれる異界の方々との縁は、彼女の蕾んだ心をほろっと解いていくわけですね。

 そしてその端々で登場するラーメンですよ。どちらの世界でも変わらない一杯は、でしゃばらないのに物語の強い推進力となり、しかして心情劇の滋味深さを味わわせてくれる。誰もが口にするものであればこそ、ふとしたときにたまらなく染みるあの感じ! 人間ドラマへの効果はまさに抜群なのです!

 あなたの凍えた心をあたためる、ちょっと不思議で最高な人情ドラマです。

(「冬こそ(冬じゃなくても)ラーメン!!」4選/文=高橋 剛)

考えるな、感じろ! 直感は全部正しいのだ(注:個人の見解です)!

  • ★★★ Excellent!!!

 山形次郎はテレビで見た「世界一旨いラーメン」を作るため、唐突に退職を決めた。そうして断崖絶壁に貼りつくジャワアナツバメの巣を取ろうとして、落下。が、なぜか無事だったことから元の断崖絶壁を目ざすも見つからず、それどころか海すらない! ここでやっと気づくのだ。彼は自分が異世界のミルゼハイン公爵家令嬢クレアリスであることに。

 本作の最重要ワードは「直感」です。次郎さんは直感で辞職して、直感でツバメの巣を求め、そして異世界転生してなお直感に突き動かされるまま、ラーメン作りのため突っ走るのですよ。

 とはいえ異世界ですし、まるでうまく行かないわけです。でも、そこまで読み進めてくればもう、読者はラーメンができることを疑えません。なぜなら次郎/クレアリスさんが絶対あきらめないことを知っているからです!

 濃厚でキレっキレに立ちまくった主人公! 勢いゴリゴリのコメディストーリー! だというのに作り込まれた世界設定! 三位一体の怪作をどうぞおいしく召し上がれ!


(「冬こそ(冬じゃなくても)ラーメン!!」4選/文=高橋 剛)

期待通りにそれは来る! ラーメン×ホラーのダブルスープを召し上がれ

  • ★★★ Excellent!!!

 アメリカ合衆国のアイオワ州南西部で暮らすデイヴィッドソン。アイオワ特有の唐突の寒さに見舞われたある日、彼は妻と連れ立ち、路地裏にある『参獄死』なるラーメン屋を訪れた。初めて食べる異国の美味“チャーシューメン”は一気に彼と妻とを虜にし、気づけば常連となっていたのだが……行く度、スープの味が変わる。店に居たはずの犬が消え、店主の妻が消え、しかし味ばかりは向上していって、ついに究極の一杯が供された!

 サメ映画は観客を裏切ることなくサメが出る、ある意味お約束を楽しむ作品ですよね。本作もまたホラーのお約束を綺麗になぞっています。

 ラーメン屋というひとつの閉鎖空間で変わりゆく演者。その中心にあり続けるデイヴィットソンさんと店主。マクガフィンであり、実は主役でもあるラーメン。彼らが真っ当に役割を全うすることで「来るぞ来るぞ」の緊迫感が生まれ、最後に爆発して「来たー!」のカタルシスを魅せる。エンタメですよねぇ。

 ぜひともこの極上の「来たー!」を噛み締めていただきたく!


(「冬こそ(冬じゃなくても)ラーメン!!」4選/文=高橋 剛)

憎むべき仇となった幼なじみを、復讐の一杯で迎え討つ……!

  • ★★★ Excellent!!!

 昇竜軒には“超爆盛り極辛煉獄ラーメン”なるチャレンジメニューが存在する。30分以内に完食すれば10万円進呈の文言に釣られた数多の挑戦者をもれなく退けてきたそれはまさに大山。亡き両親に代わって店を、攻略不能を守り続ける菫は、ここに新たな挑戦者を迎えることとなった。10年前に引っ越していったきりであった幼なじみであり、今は父母を死に追い込んだ憎きフードファイターへ成り果てた匠を。

 菫さんは復讐のために超爆盛りを作りあげました。でも、それへ挑むフードファイターが大好きだった“たっくん”となれば……? 状況の設定とキャラの関係性、噛み合いようのないふたつを噛み合わせことで、一見コメディかと思われた物語は凄まじい悲哀と緊迫を帯びるのです。

 そして武人の立ち合いさながらに菫さんと匠さんの勝負は幕を開けるのですが。幕切れの快さがまた爽やかにあたたかく、緩急ならぬ急緩の妙を味わわせてくれるのですよ。

 旨くて巧い情感超爆盛りな物語、おすすめメニューとして推させていただきます。


(「冬こそ(冬じゃなくても)ラーメン!!」4選/文=高橋 剛)