異世界でラーメン屋さんに曰くつきの結婚を申し込まれたお話

 人生の酸いを噛み締め、猫背でとぼとぼ歩く帰り道、美容師志望の松ヶ谷きよのは馴染みのラーメン屋台で息をつこうとしたのだが。いざラーメンを食そうとしたそのとき、丼の底に“狐”を見た。そして気がつけば見知らぬ場所にいて、普通に見えて狐耳を生やした普通ならぬ男性から唐突に結婚を申し込まれるのだ。彼の名は紫水(しすい)。職業は“月の側”なる異世界のラーメン屋!

 いきなり結婚を申し込まれたきよのさんはもちろん突っぱねて、元の世界へ戻るためにがんばります。でも、それにつれ結ばれる異界の方々との縁は、彼女の蕾んだ心をほろっと解いていくわけですね。

 そしてその端々で登場するラーメンですよ。どちらの世界でも変わらない一杯は、でしゃばらないのに物語の強い推進力となり、しかして心情劇の滋味深さを味わわせてくれる。誰もが口にするものであればこそ、ふとしたときにたまらなく染みるあの感じ! 人間ドラマへの効果はまさに抜群なのです!

 あなたの凍えた心をあたためる、ちょっと不思議で最高な人情ドラマです。

(「冬こそ(冬じゃなくても)ラーメン!!」4選/文=高橋 剛)

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