古くから受け継がれ、人々から恐れられることもあれば、愛らしいキャラクターにされることもあり、様々な形で人間の生活に寄り添ってきた存在、それが妖怪。というわけで、今回はそんな妖怪にまつわる作品をご紹介。
江戸時代を舞台にしたあやかしものといった王道の妖怪小説から、現代を舞台にした仙人兼料理人による妖怪退治の物語、あるいは妖怪なのかも怪しい全裸中年男性の話から、VTuberとして活動する妖怪まで、その内容は実にバラバラ! しかし、どんな話にでも自然と結びつくことができる! これこそが妖怪という存在の魅力なのではないでしょうか?

ピックアップ

名奉行善右衛門があやかしたちのいざこざをズバリと裁く!

  • ★★★ Excellent!!!

 真面目過ぎた性格が災いして僻地へ飛ばされてしまった、町奉行の暖才善右衛門。新たな赴任先は人っ子一人いない山奥の宿場町。しかしそこには人の代わりに妖怪たちが暮らしていた。突然妖怪を目の当たりにし唖然とする善右衛門だが、さらに化け狸に狐たちとの間で起きた諍いを裁いてほしいと頼まれて……。

 なんといっても本作は登場する妖怪たちが可愛らしい。狸や狐が人間に変化し、時にはモフモフな獣の姿で、巧みに術を使って善右衛門の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる。

 とことん真面目な善右衛門は、人間ではなくても町の住人である妖怪たちの住みよい町を作ろうとしっかり仕事をする。こうした妖怪たちと善右衛門の交流がとっても心地よく、読んでいてほのぼのとした気持ちになれる。

 また、妖怪たちが事件を起こした際には、力尽くで成敗するのではなく、しっかりと理を説いて、人も妖怪も納得するしかない沙汰を下す名奉行っぷりが実にお見事。

 あやかしものが好きな読者に自信を持って薦められる一作だ。


(「様々な妖怪変化」4選/文=柿崎 憲)

全裸中年男性が導く日常と非日常の境目

  • ★★★ Excellent!!!

 女子高生の安崎唯の視界にはたびたび全裸の中年男性が現れる。他の人にはその姿が見えないので、当然現実なわけがない。

 現代を生きる彼女は妖怪や心霊の可能性は考慮せず、冷静に自分の精神の異常を疑うのだが、医者に行っても本で調べてもこの状態を解消する手段は見当たらない。さらに自宅では仕事で硫酸を扱う板金工の父親がことあるたびに「おい! そこ危ねえぞ! 硫酸が置いてある!」と怒鳴り散らすせいで家族仲は最悪。

 こんな環境で過ごすせいで唯のメンタルは不安定になるばかり。このメンタルの書き方が実に良いのだ。他人との違いに悩むことや家族とのいさかいなどは誰にでも経験があるだろう。状況こそシュールなれど、本作ではそうした等身大の不安や悩みがしっかり描かれている。また唯からの相談を受けて、否定するわけでも笑うわけでもなく、しっかりと受け止めてくれる友人とのやり取りもしっとりとして非常に良い。

 だが、そんなことよりもラストである。それまでじっくり積み上げてきた感情を全て振り切るラストは、まさに衝撃のラストと呼ぶにふさわしい。決して常人には書けない異様な短編である。


(「様々な妖怪変化」4選/文=柿崎 憲)

仙人兼料理人、下町の中華屋に現れる。

  • ★★★ Excellent!!!

 下町にある『蓬莱軒』は近隣住民から愛される中華料理店。しかしある日店主が病気で亡くなってしまう。残された一人娘は店を継ぐ気が無かったが、かといってすぐに店を売るのも釈然としない。そんな中、貼りっぱなしにしていた求人のチラシを見てやってきたのが料理人のシーフー。店を訪れる地上げ屋をあっさり撃退した彼は、その場で採用されるのだが、実は彼はただの料理人ではなく仙人でもあって……。

 舞台が料理店ということもあって、炒飯や豚の角煮といった王道のものから、ドレッシングにこだわったダイエットメニューや西紅柿鶏蛋蓋飯といったちょっと珍しい料理まで、中華ならではの幅広い料理が登場するのだが、どれも非常に美味しそう!

 また仙人ということもあって、普段はぼんやりしたシーフーが店で起こる様々なトラブルを解決していく様子も面白い。時には仙術を使って迷惑客を撃退し、時には背中に担いだ中華鍋で妖怪退治をしてみせたりと、料理のメニューだけではなく、話の幅が広いのも嬉しい一作だ。


(「様々な妖怪変化」4選/文=柿崎 憲)

妖怪の力を使って楽しくVTuber生活

  • ★★★ Excellent!!!

 姿を自在に変えて長年人の世に棲みついてきた妖怪――浮世鴉。そんな彼は現代でも滅びることなく世に潜み……VTuberにハマっていた。それどころか彼は好きが高じて自らもVTuberになることを決意する!

 人気事務所のオーディションに見事合格し、早速始まる彼のVTuber生活! しかし、どうも同僚や事務所の人間たちも普通の人間ではなく……。

 しかし、同僚たちの正体がなんであれ、VTuberという生き方には関係がない。妖怪としての特性を生かし、巧みに声を変えて中性っぽいキャラを演じ、同期とコラボ配信をしたり、ビビりつつホラーゲームを実況したりして、着々と人気を高めていく浮世鴉。この浮世鴉による配信の様子が本作のメインなのだが、この内容が非常にリアリティがあって楽しいのである。

 思わぬ失言で視聴者にチャット欄でイジられたり、身内で和気あいあいとゲームを楽しんだりと、小説でありながら、VTuberによる配信の楽しさがしっかりと表現されている。VTuberものが好きな人はいかがでしょうか。


(「様々な妖怪変化」4選/文=柿崎 憲)