ちょっとした機会が得られたことから、とある神社へ詣でて来ました。そこは温泉地でもあって、なのでお店で温泉まんじゅうを買って帰ったのですが——その日と次の日で、まんじゅうの味がぜんぜん違うのですよ!
かなりいいお歳なわたくしですが、知らなかったのですよね。まんじゅうがすばらしくおいしいものだということも、次の日にはこれほどおいしさが損なわれるのだということも。
生物ならぬお菓子にも鮮度があって、それは絶対のものなのだーと、ようやく思い知りましたよ。人生っていくつになっても学びの連続ですねぇ。
とりあえずは残りの人生、一食一食大事にしていきたいと思う次第です。ええ、人より多くを喰らう太ましいおじさんです故ね。大事に多く、多く、多く……
そんな決意を次の日のまんじゅうと共に噛みしめつつ、みなさまにぜひ出逢っていただきたい新作のレビューをお届けいたします。寒くなってきておりますので、あたたかくしてお楽しみいただけましたら!

ピックアップ

1年後の自殺を宣言した祖父と家族の「今日」を描く人間ドラマ

  • ★★★ Excellent!!!

「じいちゃんな、あと一年で死ぬことにした。きっかし一年だ。来年の7月27日。みんな、準備頼むで」。唐突な祖父の宣言が希崎家を揺らす。かくて剥き出されゆく家族模様のただ中、長男である良一は自分がなにをするべきなのかを日々悩み、もがき、そして真実へ近づいていく。

良一君の奮闘劇を描く物語、その先頭に置かれた1年というタイムリミットが起点として本当によく効いています。祖父が宣言に込めた真意。深く意識していなかった、祖父を嫌う妹・千奈美さんの問題。そしてこれから語られるだろう他の家族の心情。全部が統合して提起される「家族っていったいなんだ?」を浮き彫っていくための。

そして良一君始め登場人物の有り様がすごく自然なのもいいんですよ。関係性の距離感がきちんとあって、だからこそそれを詰めていく緊迫感や、逆に近づきすぎない気遣いを感じられる。こうした“人間”の様が読める作品はなかなかありません。

この人間ドラマがどう締めくくられるのか。ぜひ追いかけていただきたい一作です。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

モテるサッカー部員なのにまったくモテない! 坊主頭の魂の慟哭を聞け!

  • ★★★ Excellent!!!

サッカー部はモテるらしい。が、3歳からサッカーひと筋で生きてきた紀藤ユウキは壊滅的にモテなかった。世界のどこかにいるという彼女との出逢いを夢見つつ、県立FH高等学校へ進学した彼はサッカー部という名の生き地獄へ入部をキメた……!

読んでいただくとすぐユウキ君がモテなかった過去は自業自得だとわかりますし、モテない現在がサッカー部のせいだとわかります。このわかりやすい事実が軽妙且つ辛辣に語られていくことこそ、本作最大の魅力ですね。

主人公が酷い状況にある理由を説明するのは簡単です。文字量を使えばいいだけのことですから。でも、その上でノリというものを文字化するのは相当に困難なのですよ。しかも、ただでさえ暗黒面へ堕ち込みがちな非モテがテーマですからね。なのに深々と抉り込んで陰々滅々することなく、主人公をただただ愉快に虐げてみせる著者さんの筆ノリ、すばらしいとしか言い様がありません。

どうぞのぞき込んでくださいまし、コメディの明るい深淵を。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

ある一点を境に形を変える、奮闘記のリアル

  • ★★★ Excellent!!!

先輩の家に泊めてもらっていた夜、突如背部へ襲い来る激痛! 痛みと高熱に耐えながら病院へ向かった“私”は腎盂腎炎(腎臓に細菌が感染する病気)を起こしていることを告げられるが、そこから始まったのだ——凄絶な大学生活が!

というわけでこちら、著者さんの闘病と闘学の日々を綴った自伝となります。

腎臓はほとんどの格闘技が攻撃を禁じている急所です。それほど脆く、感じる苦痛も恐ろしいもの。それがずっと続く。しかもおとなしく療養していられない大学生活があるとなれば、まさに考えたくない事態ですよね。

そんな事態のただ中に囚われた著者さんは当然憤りますし、弱気になりますし、思ったり想ったりします。

そして。
話はあるとき急転するのですよ。
辛くありながらも軽い語りから一気に返されるどんでんは、まさにリアルな人間を描いたからこそのインパクトを読者へ与えます。

本作を読み進めたあなたはなにを感じるのでしょうか? 締めの代わりに問いを置かせていただきたく。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)