大人な恋愛ってしたことありますか?ちなみに担当は残念ながらそのような経験はなく、ただあこがれのみ……。そこで、「せめて小説のなかで疑似体験してやる!」と読み漁っていました。
大人らしく、スマートな言動の裏に隠された想いに切なくなったり、大人だからこそこじれていく関係にやきもきしたり。どの小説も恋愛の酸いも甘いもひしひしと感じられる作品ばかりです。
甘々胸キュンだけじゃない、ちょっぴりビターな大人の恋模様。
皆さまもぜひご堪能ください!

ピックアップ

★100個でも足りない。書き手が絶望するほどの才能

  • ★★★ Excellent!!!

全100話を読み終えたとき、午前4時だった。
おそろしいほどの才能に出会ってしまった。その感動と物語の余韻が、眠りに落ちるまでわたしを包んでいた。

舞台は1988年、日本に恋人を残して北京に留学していた香菜子はさらにその奥を目指して旅をする。
「敦煌で会おう」そう言って恋人未満の男と別れ、大陸の風に吹かれにゆくが──。

思わぬ再会、約束の再会、望まぬ再会。そして新たな出会いと別れ。
本当に重いのはきっと、心の荷物。
闇も光も抱えた男女の機微や人間のドラマが繊細かつ鮮やかに描かれ、それらが読者の胸にねっとりと絡まり、叙情で包みこみ、高みへ引き上げては地面に突き落とす。香菜子の行動とその運命は、気持ちいいほどに読者の予想を裏切ってゆく。
中国料理のにおいや人物たちの汗のにおいまでが文章から立ちのぼり、むせ返るほど生々しい熱気と時代の風を連れてくる。

実体験を元にしなければ書けない物語ではあるが、事実をそのまま記した旅行記やエッセイではない。
ひとりひとりの人物たちに海溝のように深い物語があり、その個性が彩り鮮やかで、人間くさくて、悲しくて、おかしくて。
わたしもこんなふうに生きてみたい、旅してみたい、人と関わってみたい。気づけば香菜子の視点で世界を捉えている。読む前の自分にはきっともう、戻れない。

どれほどの密度でセンスと叡智と経験がつまった物語であるか、わたしの拙い言葉では言い表せない。
過不足のない表現、豊かで適切な言葉選び、巧みなレトリック。ちょっとした描写もすごくおしゃれで、台詞には押しつけがましくない程度の人生訓がこめられ、人物や世界への観察眼の鋭さは類を見ない。
表記にもこだわっていて、純文学でありながら、ルビが多いためかあえて一行空けも多用し、読みやすさも多分に考慮している。

あまりに圧倒的な才能と作品の完成度に、絶望する書き手も多かろう。わたしもそのひとりだ。これがなぜ書店に並んでいないか不思議なくらいだ。
目の縁に溜まった熱いものをこぼすかわりに、この奇跡のような作品がカクヨムに存在することを少しでも広めたくて、こうして書き立てる次第である。

まるで昼ドラを見ているよう・・・

  • ★★★ Excellent!!!

倫子の愛人村上さんと不倫相手の橋本さんの間で揺れ動く不倫劇を描いた作品です。上手く主人公の倫子さんの心理描写が描かれており、現実にこんな事が起きたら…なんて思いながら読んでしまうのではないでしょうか?

物語が進むことにつれ、不倫をした自分へと罰が跳ね返ってきます。まさかあんな事になるなんて誰が想像したでしょうか?(ネタバレを含むので、控えさせてください!)

改めて完結おめでとうございました。
不倫と言う興味を持つ方なら一度は読んでいただきたい、そんな作品であります。

愛の棘が心に突き刺さるー恋愛上級者におススメの短編集

  • ★★★ Excellent!!!

ハッピーエンド好きを公言する私はこういう話はいつも避けてしまいがちだけれど、作者さんの他の作品のファンだったので、敢えて踏みとどまってみた。 ルンルンと明るい恋ではない、ここには、愛と言う不思議な生き物に釘を刺されたまだ若く危うい魂が転がって居る。ちょっと心が痛い、だけど、目を反らせない。
いつだって、愛ってものは理屈を超えて、理性なんて飛び越して人間を翻弄するもんだよ、と どこからか呟く声が聞こえる。
夏のひととき、大人の愛の世界に足を踏み入れてみたいに人におススメです。

式の前夜に、男と

  • ★★★ Excellent!!!

結婚式前夜にかつて一緒に暮らした男のもとへと訪れる。
背徳的な設定に釣られて読んでいけば、少しずつ明かされていく二人の関係性と、言葉のやり取りがとても素敵でした。
ウミガメのスープを巻き込んで、最後の二人の姿とても印象的です。

あなたの肩はブラックホールの入り口

  • ★★★ Excellent!!!

以前、某所でレイ・ヴクサヴィッチの『セーター』という作品について語ったのですが──。

『セーター』についてざくっと説明致しますと、その日は彼──ジェフリーの誕生日。ジェフリーは恋人であるアリスからプレゼントされた手編みのセーターを彼女の前で着ようとするわけですが、襟ぐりがきつくてどうにも頭が出ない。

いつのまにか──セーターの内部には未知なる空間が広がっていて。ジェフリーは懐中電灯を片手に、そのひどくだだっ広い空間を探索する──というお話であります。

──どういうこと⁉ という声が聞こえてきそうなのだけれど、事実こういう話なのだから致し方なし。その後、落ちた懐中電灯を拾うのをきっかけに、アリスもまたテーブルの下という異世界に魅入られてしまいます。

この作品を私は「空間へのときめき、居心地への愛を描いた物語」であると考察したのだけれど。

件の作品──『あなたの肩の向こう側』もまた「空間へのときめき、居心地への愛を描いた物語」に近しいのではないかなぁと。

男女を問わず、パートナーの「自分だけを見ていて」という期待に応えるのは案外難しいもので。二人でお茶をしているとき、他愛ないおしゃべりをしているとき、睦みあっているとき。腕の中にいるときでさえ、ここではないどこかに魅入られていたりする。

もっとも、その「ここではないどこか」に思い馳せられるのは、あなたといるこの瞬間に他ならないのだけれど。

あなたの肩はブラックホールの入り口。

自分だけを見つめることのない、されどその居心地を、そこから見通せる景色を愛するあなたを愛おしく思えてこそ愛なのかもしれないなぁ──とあらためて。