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おじさんブームがきている。それもイケメン俳優や、スーツの似合う大人の美形オジではなく、どこの職場にも一人や二人はいる冴えない"非モテ"おじさんが、何故か若い女性に人気なのだとか。大人ぶってもなんだか頼りないところ、若い子についていこうと頑張ってるところ、無気力で枯れたところがパンダやゆるキャラのようで逆に癒やされるのだという。いやいや、非モテおじさんも頼りないように見えて格好良いところも眠っているんだよ。今回はそんなおじさんたちが活躍する作品を集めてみました。「能ある鷹は爪を隠す」。周りは気づかないだけで、実は世の中にはすごいおじさんが溢れているって思っていただけたら嬉しいです。
ラッパーに憧れながら一度も舞台に上がれぬままこの世を去った37歳のおっさん後藤啓治(ケイジ)が、ラップを呪文に魔法が発動する異世界で無自覚なまま最強の魔法を使って次々と強敵を倒していく軽妙なラップバトルが小気味良い。
歌詞(リリック)に魔力が宿り、伏句(フック)で精霊に呼びかけ、節回し(フロウ)によって魔法が組み上がる。それがこの世界の魔法であり、先攻後攻で交互に相手に魔法をかけあうのが魔法師同士の決闘だが、ラップ馬鹿のケイジはMCバトルと勘違いしてしまう。現世では時代遅れと酷評されたケイジのラップだが、何故か伝説の電撃魔法となって現れる。
ヒロインの貴族の美少女ライムの推薦で宮廷魔法師試験へと挑むケイジの前には名の知れた天才や名手、刺客たちが立ちはだかるが、それらをあっさりと下して夢の舞台を駆け上がるストーリーの疾走感がクセになります。
そしてなによりケイジの熱い男気から叩きつけられる決め台詞(パンチライン)にハートを撃ち抜かれる。ラップへの情熱だけでなく、戦った相手を親友(マイメン)と呼び、どんな窮地も自分の舞台として奮い立つ。世界の理不尽をぶち壊す、そのヒップホップに魂を揺さぶられます。
(「おじさん無双」4選/文=愛咲優詩)
キャンプ大好き独身アラフォーおじさん・毛利洋一は、キャンプの途中で愛車のジムニーとともに異世界へ迷い込んでしまう。現地人と言葉も文字も通じず困っていたところを運良く魔法翻訳ができる美少女カリンと遭遇した洋一が、異世界での野趣溢れる生活に馴染んでいく様子が胸躍ります。
地球に帰れず異世界で生きることを余儀なくされた洋一ですが、ヒロインのカリンの仲立ちで現地の村人と交流を結び、生活基盤を築いていく。
森に入って狩猟で得た獲物を取引したり、害獣となるモンスターを駆除したり、さらには食パン型やホットサンドメーカーなど、アイデアを出してキャンパー用品を村の特産として量産したり、魔物から取れる魔石を用いて狩猟銃を魔改造したり、現状をあまり悲観せず、異世界でのサバイバル生活を満喫している姿が楽しくて微笑ましいです。
そしてカリンを始め、親子ほど年齢差のある若い女の子たちに惚れられていく展開も美味しい。しかし優柔不断ではっきりしない態度を続ける洋一に、女性陣は次第に業を煮やして……サバイバルよりも痴情のもつれで身を滅ぼしそうで心配になってくるのだが!?
(「おじさん無双」4選/文=愛咲優詩)
ある晩、仕事から帰宅した27歳のサラリーマン・山田浩太が、隣の部屋の前で座り込む18歳の女子高生・梨積繭と出会い、お互いの心の傷を埋め合って大切な存在に変わっていく年の差ラブストーリーが胸にしみました。いまラブコメジャンルで流行りのサラリーマンとJKの同棲ものの王道です。
自宅のカギを無くした隣人の繭を一晩部屋に泊めた山田。過去の恋愛のトラウマから生身の女性に拒否反応を起こす体質のせいで、何もなかったが、それをきっかけに好意を抱かれ、おっさんの部屋に女子高生が入り浸る半同棲状態になっていく。
山田を落とすために積極的に誘惑をする繭と、大人としての自制心でそれに必死に耐える山田のイチャイチャな攻防にニヤニヤしてしまいます。
たった一晩で山田に恋してしまう繭もチョロインですが、それ以上にチョロいのは山田ですね。口では「二次元の女の子じゃないと駄目だ」とオタク趣味を言い訳に繭の想いに応じないでいるが、毎日お弁当を作ってくれたり、一緒にゲームをしたり、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になって外堀を埋められて、年下の女の子に手玉に取られている光景が可笑しいんです。
そして繭も重い家庭の事情や暗い過去があり、山田との生活の中で癒やされてゆく彼女のメンタリティにも胸が締め付けられ、涙を誘います。
(「おじさん無双」4選/文=愛咲優詩)
古本屋で見つけた奇妙な本によって異世界に飛ばされた35歳のフリーター・今川信弘を拾った10歳の少女ルルは、生まれつき魔力が少ない落ちこぼれの魔法使いだった。ルルに助けられた信弘は、とある事情で王都へ向かう彼女を手助けすることに……。おっさんと幼女の交流が和む作品です。
魔法使いの名家に生まれた双子の姉妹ルルとララ。仲の良い姉妹だったが魔力が少ない姉ルルに対して、妹のララは人並み外れた才能を持っていた。それが二人の不幸の始まりで、両親はルルを勘当してしまう。ルルは魔力がなくても家族に認められるため、魔籠と呼ばれる魔道具作りの技術を磨き、家族の元へと帰ろうとする。
幼いルルに頼りきりで元の職場でも主体性がないと揶揄された主人公の信弘ですが、ルルを身体を張って守ったり、家族と和解させるため直談判に出たりする大胆な行動力もあって見直しました。
古い価値観と権威主義で凝り固まった両親の目を覚まさせるため、信弘はルルの魔道具を使って天才児のララと魔術対決をすることに! 技術の姉ルルと、才能の妹ララの姉妹のお互いのプライドをかけた壮大な姉妹喧嘩。これまでの常識を根底から覆す大迫力の魔法バトルが圧巻でした。
(「おじさん無双」4選/文=愛咲優詩)