気が付けばもう今年も終わりでそろそろ年越しの準備で忙しくなる頃。そして年末、年越しの定番といえばやはり格闘技である。紅白ではなく、笑ってはいけないでもなく、誰が何と言おうが格闘技なのである。というわけで今回は格闘を題材にした小説をクローズアップ。異世界の武術家から、名探偵と相対する歴史的な拳法家、地下格闘技で戦う中学生、ロボットと戦うチャンピオンなど、いずれも強さを求める個性的な主人公が勢ぞろいだ!

ピックアップ

鍛え続けた武術と折れぬ信念が、最弱を最強に変える!

  • ★★★ Excellent!!!

武術の名門に生まれたにも関わらず、「気」を扱うことができず勘当されたカナト。仕方なく王立学園に入学するも他の生徒が様々な魔術を使いこなす中、彼に使えるのは大変使い勝手の悪い付与魔術のみ。周囲からは笑いものとなり結局ここでも落ちこぼれてしまう……。

しかし、そんな状況になっても決して腐らないのがカナトの良いところだ。自身の才能の有無など気にせず激しい修行に挑み、肉体を限界まで痛めつけた末ついにある極意に開眼する。

ここでどんな相手でも倒せる万能の力を得たなら話は早いのだが、そう上手くは進まない。彼が手に入れた力はだいぶ制限のかかった非常に扱いづらいもので、単純な身体能力は依然周囲の生徒の方が強いままだ。しかし、ここに彼が長年鍛え続けた武術が組み合わさることで、彼は学園最強の戦士となる!

かくして始まるカナトの下剋上。物語が進むにつれ登場する敵もどんどんインフレし、最終的には思わぬ相手も登場するが、どんなに壮大な戦いであろうとも骨子となるのはあくまで武術の理。ファンタジーと武術を組み合わせた独特な物語をお楽しみください。

(「拳で全てを乗り越える!」4選/文=柿崎 憲)

19世紀の東西のスターが共演する極上のエンターテインメント!

  • ★★★ Excellent!!!

世界一の名探偵、シャーロック・ホームズ。世界中で屈指の人気キャラクターだけに原作者であるコナン・ドイル以外の作家による様々なパスティーシュやパロディも書かれており、時には怪盗アルセーヌ・ルパンや夏目漱石といった同時代の人物と共演することも。
そしてそのホームズが本作で共演する相手は、中国拳法八極拳の達人・李書文! 言われて見れば、この二人歴史上で活躍する時期がだいぶ重なっているのである。

古典ミステリーの禁止事項とされるものをまとめた、ノックスの十戒の一つに「中国人を登場させてはならない」がある。これは当時のヨーロッパで「中国人は不可思議な技を使う」存在と見なされており、ミステリーに登場させるとアンフェアになってしまうからという理由によるもの。実際本作でも二人の中国人が殺された現場では、明らかに通常ではありえない不自然な状況が出来上がっている。

しかし、天下のホームズによればそんな不自然な状況の真実も一目瞭然。そしてホームズとワトソンは事件に隠された陰謀を追って清国へ向かう旅に出る!

ホームズシリーズのミステリー部分だけではなく、冒険小説としての側面も大きくクローズアップされた本作品。ユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道、混迷する当時の国家情勢や、清国で暗躍する秘密組織、実在の科学者による凶悪な発明、そして神槍・李書文! これらの様々な要素が一つの作品の中で見事に結実し極上のエンターテインメントに仕上がっている。

(「拳で全てを乗り越える!」4選/文=柿崎 憲)

苛烈な格闘少年と活発なお嬢様のボーイミーツガール!

  • ★★★ Excellent!!!

付き合っていた男子とのトラブルで襲われそうになった原川静香。そんな彼女を助けたのは、クラスメートの冴えない男子である佐藤剛だった。

小柄な体格にもかかわらず異様な強さを見せた佐藤の正体が気になった原川は、佐藤の事を調べ始めるうちに彼が参加する地下格闘技の世界に足を踏み入れてしまう……!

主人公の佐藤剛は中学生でありながら危ない試合に参加しているだけあってかなりのワケありで、敵対する者には容赦なく暴力を振るうことができる危険な男なのですが、そんな彼につきまとうヒロインの原川が非常に明るくて元気な良いキャラなんです。

地下格闘技が題材ということもあって普通なら凄惨な雰囲気になりそうなのですが、この原川が日常と裏の世界を繋ぐ役割を果たすことで、正反対な男女のボーイミーツガールを軸にした爽やかな印象が残る青春小説に仕上がっています。

作品自体は佐藤の事情や登場人物を一通り紹介した時点でいったん完結していますが、作者によれば続編も現在制作中ということで、是非彼らの物語の続きが読んでみたいものです。

(「拳で全てを乗り越える!」4選/文=柿崎 憲)

男には戦わねばならないときがある。たとえ相手が機械であろうと。

  • ★★★ Excellent!!!

AIが発展し、日常の様々な場面でロボットが働く近未来、ロボット格闘技の王者Clemencyが次なる対戦相手に指名したのは、人間の格闘技王者・柏木応樹だった。応樹はこの挑戦を受けていいものかどうか迷うのだが……。

近年ではAIが将棋や囲碁のプロと対戦し、圧倒的な強さを見せているが、本作はその格闘技版である。ロボットと人間が戦えば、そりゃロボットが勝つだろうと思われるだろうが、本作に登場するロボットはあくまで出力を人間レベルに抑えた存在。つまり勝敗を決するのは肉体の強さではなく、互いの頭脳、技術、そして心の在り方だ。

人間は格闘というジャンルでも機械に超えられてしまうのか? そんなことを多くの人間が心配する中、応樹の考えはもっと根源的なところにあった。自分が誰と戦うのか、何のために戦うのか、彼は悩み続ける。

そうした一人の格闘家の不安や葛藤を丁寧に描くからこそ、ラストで書かれる応樹とClemencyのバトルは非常に熱く、そして戦いの末に訪れる結末は、読者の心に苦いものを残す。

格闘技という枠組みだけではなく、人間対AIという今後ますます書かれるであろう分野を描いた作品としても非常に秀逸な作品だ。

(「拳で全てを乗り越える!」4選/文=柿崎 憲)