早いもので今年も残りわずかになりました。今年もたくさんの作品を読ませていただき、レビューをさせていただきました。なかでも過去にレビューした作品が書籍化されもしました。自分は何もしていませんが、大変うれしいことでした。書籍化にはならないもののレビュー作品で続いているものもちょくちょく覗かせていただいています。作者様がカクヨムコンやその他のコンテストに出品されているのをみて頑張っているんだなぁと陰ながら応援もしています。さらに来年は躍進できることを願っています。カクヨムの書き手、読み手の皆さん。ありがとうございました。来年もどうかよろしくおねがいします。

ピックアップ

一番人気よりも一着を。底辺騎手と弱小サラブレッドの成り上がり

  • ★★★ Excellent!!!

 鳴かず飛ばずの底辺ジョッキー町村優駿は、落馬による意識混濁の中で競走馬の王様キングオベイロンから弱馬救済の命令を受ける。三流騎手と落ちこぼれサラブレッドが奇跡の復活を遂げ、大穴の万馬券を量産する大勝利を重ねる快進撃が痛快です。

 競馬は血統の優劣がすべてを決めるブラッドスポーツ。しかし勝負はゴールするまでわからないのが競馬の面白さだ。

 キングオベイロンの助力で町村が得たのは競走馬と対話する力。レースの意義、集団の位置取り、仕掛けるタイミング、それまでの騎手生活で培ったノウハウを競争馬に直接教え込み、人馬一体となってレースに挑む。
 誰も予想だにしないレース展開で、ゴール直前に馬群の後方から一気に追い抜いて一着をもぎとる逆転劇が興奮する。

 血統の劣る競走馬で連勝し注目を浴びる町村だが、キングオベイロンとの契約で馬が強くなれば鞍を降りなければならない。騎手としての町村は決して大舞台のレースでは走れない。
 そんなジレンマを背負いながらも、経営難に陥った幼なじみの厩舎を救うために立ち上がる勇姿にシビレます。

 最後に勝つのは馬の血統か、それとも騎手の腕か。その答えは物語の最後まで読まなければわからない。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

その努力はやがて君の『たからもの』になる。女の園の天国と地獄

  • ★★★ Excellent!!!

 足の故障で野球を断念した湊鍵太郎は、高校入学の日、吹奏楽部の新歓コンサートを聴く。綺麗な先輩たちに釣られて吹奏楽部に入部した鍵太郎だったが、そこは女性社会のスパルタ特訓地獄だった。初心者の少年と変人ばかりな先輩たちが紡ぐ吹奏楽の世界が甘酸っぱい青春に満ち溢れていました。

 鍵太郎以外はほとんど女の子ばかりで、これはハーレムか?と思いきや、男子は奴隷。男子の意見は通らない。楽器運びや力仕事は丸投げ、なにか失礼があればすぐに女性陣の噂になる。そして想像以上に体育会系な吹奏楽部の実情に夢を壊されます。

 けれど先輩たちがそれぞれ魅力的です。天然でおっとりした先輩、テンションが高い先輩や、知的でクールな先輩、頼りになるのかならないのかわからない男の先輩もいれば、鍵太郎と同じ新入生組も個性的なメンバーが揃っていて賑やかで飽きさせない。

 マウスピースを咥えて音を出すことすら初めての鍵太郎にとって吹奏楽の練習は苦難の連続だけれど、先輩たちは厳しくも優しい。部長で巨乳美少女の春日美里につきっきりの演奏指導を受けて、次第に距離が縮まっていく姿がとても羨ましい!

 自分の新たな生きがいを見つけ、先輩たちの演奏を追って駆け出した鍵太郎の姿が胸を熱くさせます。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

青春は喜びと悲しみの花束。平行世界の彼と彼女たちの日常

  • ★★★ Excellent!!!

 平行世界にまたがって存在する特異な者・偏在者。ある日、偏在者として目覚めた榎舟相真は、偏在者が集められた学生寮サクラ荘へと入居し、学園生活を過ごすことに……。平行世界を股にかける少年少女が繰り広げるちょっと不思議な日常の学園ストーリーが愉快で、感動しました。

 この世にはA、B、C、Dの4つの平行世界があり、それらを観測できる相真たち偏在者は、別の世界の人や物が見えたり、見えなかったりと毎日のように奇妙な体験が起こる。

 特殊な境遇の彼らだが、中身は普通の高校生。学生として試験前には勉強もしたり、男女間の恋愛問題にも巻き込まれたり、学校行事にも参加する、そんな日常と非日常が混在するギャップが興味深い。

 共同生活を過ごしながら寮生たちとも友情を深めていくが、遍在者であるのは一時期だけ。自分の世界に戻ってしまえば、もう二度と会えない。いずれ来る仲間との別れを覚悟して青春の思い出を作るサクラ荘の住人の姿に心を揺さぶられます。

 かけがえのない青春の儚さと、友情の素晴らしさを感じさせる青春小説です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)