太陽がアスファルトを灼き、夏虫の熱唱が鳴り響く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。先日から我が家ではエアコンがフル稼働しております。ついに夏がやってきました。誰も呼んでない。お願いだから帰って……。コンビニのしろくまアイスと冷やした麦茶が最近のちょっとした楽しみです。そんな夏の暑さを涼しくする新作を今回も選んでみまし……あっ、違った。これもっと熱くなってしまう奴だった。まあ気温より暑い作品を読めば相対的に涼しくなるはずです。物語への熱中症にくれぐれもお気をつけてお読みください。

ピックアップ

日常は冒険だ! サラリーマンは現代に生きる冒険者

  • ★★★ Excellent!!!

 サラリーマンの日常をファンタジーのフィルターを通して描いた物語が冒険と夢に満ちていました。

 主人公は名古屋のIT企業に勤める20代の独身男性。

 毎朝、転移ポータル(電車)でギルド(会社)に通い、モンスター(顧客)と戦闘(会議)をこなし、パーティ(プログラマーチーム)を率いてクエスト(案件)を達成する。

 ときとしてダンジョン(名古屋地下街)で迷ったり、氷結の呪文(仕様変更)に背筋を凍らせられたり、緊急クエスト(休日出勤)が発生したりと、度重なるトラブルや困難が襲いかかる。

 歴戦の冒険者(サラリーマン)である彼は、ピンチのときも慌てずポーション(缶コーヒー)で回復し、仲間との連携で乗り切る。過酷な一日を終えると魔女の館(スーパー)で購入したアイテム(値引きお惣菜)とエリクサー(ビール)で疲れを癒す。

 まさに冒険そのもの。むしろ女子高生とデートしたり、後輩の女子と旅行したりするところが一番のファンタジーかも。

 他とは一風変わった表現力で、ありふれた日常をハラハラ、ワクワクさせてくれます。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

己の愛を貫け! 純情少年と異種族の美少女の学園ラブコメ

  • ★★★ Excellent!!!

 ラノベによくいるハーレム系主人公を父親に持つ男子高校生・ハセガワ。何人もの美女と付き合う不誠実な父親への反発から、自分は誰か一人を生涯愛そうと心に誓うものの、異性への耐性ゼロで女子とまともに話せない。

 憧れの人気女優・森野エルフが転校してきても、ハセガワのいる文芸部に入部してきても、ただ遠くから眺めるだけというヘタレっぷりが笑いを誘います。

 しかし偶然にも森野エルフが本物のエルフ族だと知ってしまい。完璧美少女に見えた彼女の意外なポンコツぶりに戸惑ったり、ブラコンな義妹の魅夜のヤキモチに困らされたり、異種族の美少女ヒロインとのラブコメ展開が思わずニヤニヤしてしまう。

 イケメンでもなく、特別に何かが優れているわけでもないハセガワですが、女性を大切に思う一途な信念でヒロインたちの心を開いていく姿が、滑稽ながらも本気の男の子の熱い思いが漲っていて微笑ましくなりました。

 ハーレムを嫌っているハセガワだけど、このままだとハーレムルートなのでは? この先いったいどうなる?

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

情熱を歌え! アニソンライブはアーティストが激突する戦場

  • ★★★ Excellent!!!

 ある春の日、男子高校生・仁藤景は幼馴染の少女・加島恵麻と再会する。歌が好きだった彼女は離れていた間に新人歌手としてデビューしていた! アニメのタイアップ曲を賭けて複数のアーティストが競う「アニソン戦争」へエントリーした恵麻を手助けすることに……。

 主題である「アニソン戦争」という設定が面白い! 声優、アイドル、歌手、さまざまなアーティストたちが公開ライブで歌声を披露し、ファンの投票でアニメの主題歌が決まる。なにそれ楽しそう!

 ダジャレ好きなのが玉に瑕だが裏表のない正直者の景。小柄で可愛らしいがアニソン歌手になる夢を追う芯の強い恵麻。
 幼い頃と変わらないお互いの姿に、恋心を募らせていくピュアな二人を応援したくなります。

 けれどライバルである結野紗々里もまた魅力的なのが悩ましい。人気アニソン歌手の母を持ち、親の七光りと呼ばれることにコンプレックスを抱きつつ、アニソン戦争に夢とプライドをかける姿が凛々しくて惹きつけられます。

 そんな二人のヒロインがアニメの主題歌をかけてライブで激突する! 勝負の行方や如何に!?

 アニソン好きにオススメの一作です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

一日しか記憶が保たない少年と、謎の美女の奇妙な関係

  • ★★★ Excellent!!!

 ある朝、見知らぬ部屋で目覚めた少年は、自分が何者かをすべて忘れていた。倒れていた彼を保護したという謎の美女は、少年に食事と寝床を与える。のんびりと穏やかな時間を過ごすが、少年は隠されていた日記を見つけてしまう。そこには過去の自分からのメッセージが綴られていた。

 記憶が毎日リセットしてしまう少年と、その少年を自宅に匿う謎の美女の奇妙な関係に引き込まれます。

 家族や親戚もおらず田舎の一軒家で暮らし、普段は優しくお淑やかな女性ですが、買い物に出掛ける以外は、一日のほとんどを少年との二人だけで過ごす。

 少年の存在を周囲にひた隠しにして、毎日同じ生活を何年も続けている美女の狂気にゾッとします。

 散りばめられたヒントを辿って二人の関係に迫るミステリーであり、次第に豹変して本性が見えてくる美女の姿はまさにホラーです。

 といっても、誰かが傷ついたり不幸になったりするわけではありません。テーマはタイトル通り、生きること、そして成長することです。最後には儚くも切ない感動で満たされます。

 真夏の夜に読むのにピッタリな作品です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)