毎回新作紹介では、よくもまあこれだけ面白い作品が毎回出てくるものだと感心させられるのですが、それと同時に紹介しようとした作品に既にいっぱいレビューやコメントがついている場合もあって、カクヨムは優れた書き手ばかりではなく、それを見つける読者も豊富な、活発なプラットフォームなんだなと実感させられます。
自分もそんなカクヨムという場にわずかながらも活気を加えられることを祈って今回も新作4本をご紹介させていただきました。
それではよろしくお願いします。

ピックアップ

彼女か許嫁か、それが問題だ。

  • ★★★ Excellent!!!

ある日突然両親から許嫁の存在を知らされた、高校生の澤田隆司。許嫁の存在に加えて、両親に隠されていた複雑な家庭の事情、さらに高校を卒業する来年の春には結婚しないといけないハイスピードな展開と、次々明かされる新事実にもう夜も眠れない。

そんな混乱のさなか隆司は話の弾みで、顔は良いけど性格は最悪という評判で知られるギャルの同級生・石野樹里と付き合うことに。
最初はすぐに別れることになるだろうとたかをくくっていたが、付き合いが続くにつれてどんどん彼女の意外な一面が見えてきて、やがて本気で樹里のことを好きになり始める隆司だが、タイムリミットの春はどんどん近づいてきて……。

主体性がないせいで、勝ち気な性格の樹里にガンガン振り回されっぱなしの隆司ですが、そんな態度にイライラさせられることはないのは、彼の主体性のなさが、多少自分が嫌な思いをしても周りの人のために我慢できる優しさの裏返しだとはっきりわかるから。

しかし、選ぶべきは彼女か許嫁か。こればかりは周囲の気持ちではなく自分の意志で決断しなければならない。

果たして隆司が出す答えや如何に!?

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

呪いのヴァイオリンが奏でる奇妙な独奏曲

  • ★★★ Excellent!!!

大学で音楽を学ぶKは、一人のうさんくさい男に声をかけられ、彼が探しているヴァイオリンに隠された数奇な遍歴を打ち明けられる。

そこで明かされるのは、偏屈で演奏の腕はないのに音楽理論に一家言持つ光太郎、彼の親友で優れた腕前を持つ橘、そして学内でもズバ抜けた音楽の素養と美しい容姿を持つ才媛、音無嬢、この三名の間で繰り広げられる愛憎劇だった。弾く者の演奏に異様な魔力を与えるヴァイオリン、そしてそれに影響されるかのように徐々に人間性を変容させる若者たち、ゆっくりと確実に破滅へと導かれるストーリーと、これだけでも充分面白そうなのだが、しかし、本作で何より注目すべきはその文体だろう。

作者は『ドグラマグラ』『少女地獄』などで知られる夢野久作のパスティーシュと言っているように、語り手の口から放たれる不気味なのにどこかユーモアも感じられる言葉の数々は、まさに夢野久作の怪しげな雰囲気を彷彿とさせる一品となっている。

まずは試しに冒頭の数行を読んでみてほしい。この文体に惹かれたという方は、最後まで読んでみれば満足すること請け合いだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

ゾンビ化した人類が紡ぐ未来の風景

  • ★★★ Excellent!!!

ゾンビ映画が好きという人でも、ゾンビになりたいという方はあまりいないだろう。しかし、本作ではゾンビになった人たちが主人公。期せずしてゾンビになった人々ひとりひとりにスポットライトを当てる短編集になっている。

ゾンビと言っても体が腐っているだけで、知性はあるし人間を襲うわけではない。しかし、当然周りからの見る目は変わるし一緒には暮らせなくなる、そんなゾンビになった人々の葛藤や日常の描写を描いていく作品……と思いきやそれにとどまらず、なかなか死なないゾンビの体質を活かして、宇宙進出の先駆けとなったり、月や火星に植民を始めたりと、どんどんゾンビの活躍による独特の未来像が描かれていくという設定が非常に秀逸。

最初のゾンビの発生から数百年後、新人類と呼ばれ、新たに人間たちの力を獲得していくゾンビたち。そういった壮大な歴史のスケールを、あくまで個人個人の物語を見せていくという構成が大変面白い。腐ったものしか食べられないけど発酵食品は普通に食べられるとか、バレンタインデーにはチョコレートの代わりにチーズを送るなど、独特の形で社会に馴染んでいるゾンビたちの日常描写も楽しい。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

無力な少年は黒猫と共に伝説への道を駆け上がる!

  • ★★★ Excellent!!!

元スラムの孤児で、現在は魔法学園に通っているクラウン。図書室での内職中に、彼はオーサと呼ばれる伝説の破壊神を目覚めさせてしまうのだが、そのオーサの外見はどこからどう見てもただの可愛い黒猫で……。

平凡な主人公が伝説的な力を手に入れて「俺TUEEEEEE!」というのは、皆大好きなお約束で本作もタイトルだけ見るとそんな感じはあるのだが、あんまり調子に乗らないのが本作主人公の最大の特徴であろう。

破壊神を目覚めさせたのも小さな思いやりがきっかけだし、オーサが力をくれるといってもそれは卑怯だからといって拒もうとするし、戦闘手段は石を高速で飛ばすぐらいしかないのに、基本的に自分の力で問題を解決しようとする。
なし崩しでオーサの力を借りてしまうことはあっても、それを自分の力だと奢ることはなく、日々非力さを実感しながら周囲の友人やライバルに負けないよう努力する。

そんな彼だからこそ、破壊神のオーサも読者も彼を応援したくなるのだ! そして主人公を応援しようと踊ったり歌ったりするオーサの姿がとっても愛らしい。

物語はちょうど切りのよいところでいったん終わっており、手ごろな文章量に収まっているので、連載を追うのではなくある程度まとまってから読みたい人は是非どうぞ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)