毎回新作紹介では、よくもまあこれだけ面白い作品が毎回出てくるものだと感心させられるのですが、それと同時に紹介しようとした作品に既にいっぱいレビューやコメントがついている場合もあって、カクヨムは優れた書き手ばかりではなく、それを見つける読者も豊富な、活発なプラットフォームなんだなと実感させられます。
自分もそんなカクヨムという場にわずかながらも活気を加えられることを祈って今回も新作4本をご紹介させていただきました。
それではよろしくお願いします。

ピックアップ

呪いのヴァイオリンが奏でる奇妙な独奏曲

  • ★★★ Excellent!!!

大学で音楽を学ぶKは、一人のうさんくさい男に声をかけられ、彼が探しているヴァイオリンに隠された数奇な遍歴を打ち明けられる。

そこで明かされるのは、偏屈で演奏の腕はないのに音楽理論に一家言持つ光太郎、彼の親友で優れた腕前を持つ橘、そして学内でもズバ抜けた音楽の素養と美しい容姿を持つ才媛、音無嬢、この三名の間で繰り広げられる愛憎劇だった。弾く者の演奏に異様な魔力を与えるヴァイオリン、そしてそれに影響されるかのように徐々に人間性を変容させる若者たち、ゆっくりと確実に破滅へと導かれるストーリーと、これだけでも充分面白そうなのだが、しかし、本作で何より注目すべきはその文体だろう。

作者は『ドグラマグラ』『少女地獄』などで知られる夢野久作のパスティーシュと言っているように、語り手の口から放たれる不気味なのにどこかユーモアも感じられる言葉の数々は、まさに夢野久作の怪しげな雰囲気を彷彿とさせる一品となっている。

まずは試しに冒頭の数行を読んでみてほしい。この文体に惹かれたという方は、最後まで読んでみれば満足すること請け合いだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

無力な少年は黒猫と共に伝説への道を駆け上がる!

  • ★★★ Excellent!!!

元スラムの孤児で、現在は魔法学園に通っているクラウン。図書室での内職中に、彼はオーサと呼ばれる伝説の破壊神を目覚めさせてしまうのだが、そのオーサの外見はどこからどう見てもただの可愛い黒猫で……。

平凡な主人公が伝説的な力を手に入れて「俺TUEEEEEE!」というのは、皆大好きなお約束で本作もタイトルだけ見るとそんな感じはあるのだが、あんまり調子に乗らないのが本作主人公の最大の特徴であろう。

破壊神を目覚めさせたのも小さな思いやりがきっかけだし、オーサが力をくれるといってもそれは卑怯だからといって拒もうとするし、戦闘手段は石を高速で飛ばすぐらいしかないのに、基本的に自分の力で問題を解決しようとする。
なし崩しでオーサの力を借りてしまうことはあっても、それを自分の力だと奢ることはなく、日々非力さを実感しながら周囲の友人やライバルに負けないよう努力する。

そんな彼だからこそ、破壊神のオーサも読者も彼を応援したくなるのだ! そして主人公を応援しようと踊ったり歌ったりするオーサの姿がとっても愛らしい。

物語はちょうど切りのよいところでいったん終わっており、手ごろな文章量に収まっているので、連載を追うのではなくある程度まとまってから読みたい人は是非どうぞ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)