3万年の歴史を湛え、1000万人が暮らす自然豊かな台地、武蔵野。この地をテーマにした作品を大募集!
569 作品
今回は、それぞれに武蔵野の地勢や風景をさりげなく描き込んでいる作品が多かった気がします。くりかえし読んで逡巡の末に、大賞には千葉やよいさんの「逃げ出したチッチ」を選びました。崖のうえの熊野神社の境内で、突然の強い風に吹かれながら、少女が飛び去ってゆくインコのチッチと別れをはたす場面に心惹かれます。一瞬、はるかに遠い縄文の海が崖下から寄せてきて、息を呑んだのです。審査委員賞には、葛西秋さんの「狸穴坂」を選びました。舞台はその名もむ狸穴坂、そこで「私」が若者の追いはぎに遭うてんまつが語られています。最後になって、坂のうえに棲む武蔵野狸が正体を顕わすところに、昔話の陰画のようなおもしろみを感じました。ほかに、茂田新さんの「武蔵野グラフィティ」、篠川翠さんの「御岳山のお犬さま」、くもまつあめの「ケヤキの下の一石二鳥」などが心に残りました。武蔵野台地が西の山の根から東のはずれの崖まで、そこかしこで再発見されていることに、歓びを感じています。
赤坂憲雄
大賞の「タヌキの一期一会」は調布駅前の路線バスの中で不思議なタヌキに遭遇する話。タヌキの飄々としたキャラクターが可愛らしく、お腹の毛の中にICカードをしまったり文庫本を取り出したりするディテールも楽しい。上質なユーモア感覚のあるファンタジーで、読んでいて幸せな気分になれました。
審査委員賞の「東京ダイダラボッチダイラタンシー」は、旧世界やダイラタンシー現象の説明はもう少し欲しかったですが、「奇行が目立つ」國枝さんが「僕」の目線から生き生きと描かれており、そのエキセントリックな魅力がライトノベルのヒロイン像として際立っていました。
その他、残念ながら受賞は逃しましたが「狂信的蒐集者 100年前に海の底に沈んだものを探している(短編)」は、最初想像したのとは全く違うラストで、読んでいて一番意外性を感じました。短い文字数の中でも読者に驚きを与えようとする意欲が感じられ、印象的な作品でした。
KADOKAWA ライトノベル編集部
角川武蔵野文学賞によせて書きました。ファンタジーなのでライトノベル部門にしましたが、素養がないのでラノベっぽくないかもしれません。
チッチが家を出ていったのは、日曜のことだった。お昼ごはんの片付けをしていた母が、生ごみを出すために勝手口を開けたそのドアのすき間から、ばさばさっと羽音をたてて、飛び立っていった。
こちらは第二回武蔵野小説賞のために書き下ろしたものです。しかし上手くまとまりきらず、残念ながらボツにして公開してませんでした。
この度、第三回目が募集されるにあたって、ラストシーンを大幅に改良していかにもラノベらしく仕上げてみました。
武蔵野の大地を一直線に走る中央線。
その行先に見える東京スカイツリー。
武蔵野といえばダイダラボッチ伝説。
國枝さんの世界の色を塗り替える秘策とは?
文芸作品として読んでいただけたら幸いです。よろしくお願いします。
近現代の中央線、その沿線には雑木林が広がって、多くの生き物が人々の隣に暮らしておりました。今よりもちょっと昔の物語です。
柳瀬川の河童伝説のひとつに、和尚に助けられた河童がいます。
河童は、川で人間や馬に悪さをしていたので、人間に殺されそうになります。そこで救ってくれたのが和尚です。
「絶対に人や馬に危害を加えてはいけないよ」
その約束と共に河童の命を助け、逃がしてくれました。そのお礼なのでしょうか、翌年、和尚の眠る枕元に鮒が2匹置いてありました。
またこの事件があって以降、人間や馬が行方不明になることはなくなったそうです。
時は流れ、令和になりました。伝説の河童も子供を産み、その子孫達もまた柳瀬川で暮らしています。河童の生活、ちょっとだけ見てみませんか?
「第3回角川武蔵野文学賞」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております