概要
赤い月に染まるガラスの向こう、甘い香りに満ちた密室で、
触れられた喉元に、静かな重みが落ちていく。
正確に、まるで何かを確かめるかのように。
それは愛の果てではなく、ある問いの果てだった。
失われた人と、届かない最期。
残された者の渇望は、やがて一人の小説家へと辿り着く。
彼は、何を見ていたのか。
彼女は、何を書いていたのか。
歪んだ切なさが、今夜、あなたの喉元にも触れる。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!美しさは、静かに狂気へと変わる
美しさと恐怖は、こんなにも静かに同居できるのか……そう思い知らされる作品でした。
本作は、赤い月の夜に起きた「ある出来事」を起点に、喪失と向き合う一人の男の内面を、繊細かつ緻密な筆致で描き出した物語です。大きな事件や派手な展開に頼ることなく、匂い、光、触感といった感覚描写を積み重ねることで、読者をじわじわと物語の深部へと引き込みます。
特に印象的なのは、「理解したい」という切実な想いが、いつの間にか別の形へと変質していく過程です。その変化は決して唐突ではなく、むしろ自然であるがゆえに、気づいたときには逃れられないところまで連れていかれます。
また、薔薇や月といったモチーフの使い方が非常…続きを読む - ★★★ Excellent!!!読書をする悦びを再確認できる美しさ……
この人にしか書けない……そんな文章がこの世界にはたしかにあります。
どの箇所を切って読んでも、作家の方が選び抜いた言葉に出会うことができる。
爪や唇、瞳といった人間の身体を通じた細やかな筆致は美しく、風景が目の前に浮かび上がってきます。
ただそこには美しく、甘美なだけではない、切実な深みに引き込まれていくことになります。
この物語を描かないわけにはいかなかった……
読み通すなかで、そんな作家の方の姿を感じました。
なぜ……
そんな問いかけが物語に染み入るのも、科学と天体観測がお好きだという作家ならではのものなのかなと個人的に受け止め、描かれる「赤い月」の風景に心惹かれるものがありまし…続きを読む - ★★★ Excellent!!!喪失の意味を、最後の光景を、言葉の海に求めた男の甘美な末路。
五感を狂わせるほどに美しく、そして残酷な物語でした。
冷たい安置室で見た「指の痕」。
その輪郭をなぞるようにして募る男の渇望が、静かな狂気へと侵食していく過程に息を呑みます。
特筆すべきは、その圧倒的な比喩表現。蜜蝋の匂い、冬の湿った光、そして掌の下で跳ねる脈動。緻密な言葉選びによって綴られる情景は、読者の肺の底にまで「消毒液と薔薇の香り」を送り込んできます。
男は被害者でありながら、救いを求めた作家の言葉に魅了され、皮肉にも自らが加害者となることで、亡き彼女と同じ闇へ降り立ちました。
「なぜ」という問いの先に、救いではなく「完結」を求めてしまった男の末路。
倫理が溶け、美しさと不気味…続きを読む - ★★★ Excellent!!!余白に埋もれる歪んだ愛が男を狂わす
耽美な作風の、胸の奥より不気味さの迫る作品です。
さて、これは危険な問いです。
あなたは、人間が事切れる間際の表現を磨きたいと思ったことはありますか?
描写を細やかに書きたい。ブレーキをかけつつも、誰だってそう願ったことが一度はあるのではないでしょうか。かといって、人を手に掛けるなんてとんでもないお話です。
フィクションはいつだって、倫理とリアリティの追求の狭間で揺れているように思います。
ガラスに映し出される月は血塗られた色、壁一面に這い伸びる深紅のバラ。甘く美しい空間の奥に畏怖の念が潜みます。美しさと怖さの共存する室内で、男は女性の喉元に触れます。
「なぜ」の問いに明確な答えを示さ…続きを読む