概要
かつて天才と呼ばれた腕を持つ楽器職人・ヴァルトは、歌うことだけが取り柄の少年・ルカと出会う。
人の歌声を「閉じ込める」という楽器《ヴォクス・カーヴァ》を完成させることをルカに約束するヴァルト。
楽器が完成に近づくほど、少年の声は削られていく。
それでも、ルカは美しい声で歌い続ける。
音楽に命をかける二人の、交わらない結末を描く物語。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!圧倒的な「音」の描写が生む、二人の切ない関係
貰ったただ一言のために、自分のすべてとも言える声を差し出そうとする。
美少年ルカの献身は、あまりにも純粋で、そして、美しく切ない。
ヴァルトは音楽という芸術に取り憑かれ、歌を閉じ込める楽器『ヴォクス・カーヴァ』の製作者。
この二人の関係は、名前のつけられないまま、歌を介して魂に触れ合っていくように交わり、すれ違っていく。
この物語が特にすごいのは、「音」の描写。
音楽が死んだ街・シュタインベルク。
その荒廃が、「音」として強く伝わってくる。
酒場に満ちる騒音、錆びた金属、食物の飛び散る音、舌打ち──
不快な不協和音が街を満たし、読んでいるだけでこちらも胸がざわつく。
だか…続きを読む - ★★★ Excellent!!!音とは儚い一瞬。 魂にふれて、消える。 火花のように。
聖書の天地創造において、神は言われた。「光あれ」と。
もしそうだとするならば、
光より先に、闇より先に、
この世界には音があったのではないかと思う。
音は神聖で、神秘的だ。
目には見えないのに、一瞬にして現れて、やがて永遠に溶けていく。
音には底知れない力がある。
人の魂を震わせ、光よりも眩しく世界を照らす。
この物語で語られる伝説の楽器——ヴォクス・カーヴァは、まさにその力を体現する存在だ。歌声を弦に写し取り、魂そのものを音として残す。美しく、そして残酷な楽器。
音楽が死んだ街で、二人は出会った。音に取り憑かれた職人ヴァルトと、歌うことでしか生きられなかった少年ルカ。似ているよう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!音のない世界で鳴り響く、残酷で美しい魂の受肉
冒頭の一文の強さ!
そして音楽が死んだ街という設定だけで、もう勝利が確定している。
この作者さんは、本当に舞台設定が上手い。
錆びた刃、濁った琥珀色の水面、霧の粒子――この作者さんは、言葉の選び方が直感的で、かつ正確だ。
透明な弦が放つ虹色の光なんて、読んだ瞬間に脳内に映像が浮かぶ。
ただの情景描写じゃなくて、こっちの五感に直接手を突っ込んでくるような生々しさがある。
正直に言う。この物語の一番の凄みは、このヴァルトとルカの二人が文字の上で完全に生きていることだ。
過去の罪と音楽への狂気に囚われたヴァルトの、血を吐くようなエゴ。そしてルカ——彼から与えられた対等というたった一言のために、自…続きを読む