変わらないのは(fateful reunion)
菜乃ひめ可
✧
どんッ!
「キャッ」
「危ないっ!」
ぱふっ――。
「大丈夫ですか? 怪我は――」
「あ、はい。す、すみま、せ……」
偶然だった。
「「えっ……」」
再会は突然に。
薄れていた思い出は、再び鮮明さを帯び色を付けてゆく。
「もしかして、みぃちゃん?」
「え、もしかして……あっくん」
そう。助けてくれたのがあなただと気付いた瞬間、支えられた腕の中で私の頬は燃えるように熱くなり、あっという間に紅潮していくのが分かった。
「階段危なかったな、大丈夫か? って、すげぇ懐かしい、元気?」
「ありがとう、大丈夫。あ、あっくんも……元気だった?」
八年ぶりだった。
彼は見違えるほどに素敵な容姿になっていて、その背丈は最後に顔を合わせた日(中学の卒業式)からは想像できなほどに伸びていた。
「おぉ、元気元気! みぃちゃんも元気そうで良かった。それにしても、中学ん時と全然変わらないなー」
「えっ? と、あっくんこそ、変わらないね! 私、顔見てすぐ分かったよ」
「そうか? うーん嬉しいような……いや待て、みぃちゃん。そこはぜひ、カッコ良くなったと言ってほしい!」
「……か、かっこ……」
(もちろん! あっくんはかっこいいよ。小柄だった昔も、背が高くなった今も)
口には出せない秘めてきた想いが溢れそうになる。平常心を保とうと、それでも私の目は泳ぎ、隠しきれない動揺が心の中を埋め尽くす。その頭から湯気でも出そうなくらいに、会話すら恥ずかしくなってきた。
「それか、大人になった~とか」
「――っ!」
声の高さも凛々しい顔つきも、すごく『大人』な感じがした。
さっきは思わず言った『変わらないね』の言葉。でも本当の気持ちは違う、違うんだよ?
(うんうん。童顔の私とは違って、すごい大人の雰囲気だよ)
でも私は、あの頃ずっとあなたの事を見ていたから。だから、ひと目見てすぐに分かったよ。
(でも、あっくんの無邪気な笑顔は変わってない)
伝えられない初恋をした、八年前。一緒に笑い合えるだけで幸せで。みんなの憧れだったあなたの存在は、近くて遠かった。
「冗談はこれぐらいにして――本当、階段から落ちなくて良かったな。マジで痛いとこないか? どこも怪我、しなかったか?」
「大丈夫、大丈夫! ごめんね、朝の忙しい時に迷惑かけちゃって」
それに比べて、私はいつまでも背は低いし、子供っぽいし。本当は綺麗になったね、とか言ってもらいたいのに。でもそんな姿には程遠くて……。
(二十三歳。今はまだ大人の女性になんて)
「迷惑? 思うはずないよ。だいたい、みぃちゃんが謝ることないだろ。いくら急いでいたって、後ろからいきなりぶつかってきたあのおっさんが悪い」
今私たちが話しているここは駅の構内。しかもちょうど朝の通勤ラッシュでごった返しな時間帯だ。なりふり構わず我先に、な人ばかりが行き交う……そういう場所である。
「いいの。私がぼんやりしてて、のろのろ歩いてたからいけないの」
「みぃちゃんは相変わらずだなぁ。そういうとこ、変わってない」
そう言って彼は、フッと優しく微笑む。
ドキッ――。
眩しいくらいの彼の笑みに、胸が高鳴る。私は背丈だけじゃなく、心も成長してないのだろうか。
――きっとあの頃から、何も変われていないのかも。
「えっへへ。もっと成長しなきゃって思うんだけど。いつまでたってもこんな感じで、子供っぽくって……もぉ~嫌になっちゃうよねぇ」
そんな自分の姿に落胆しつつ再会の恥ずかしさも相まって、私は手で頬を隠し気持ちを誤魔化すように必死で笑顔をみせた。
「え? 俺は、みぃちゃんが変わってなくて、本当に良かったと思ってる」
「――ッ!?」
周囲を小走りする人たちはまるで他人の事なんて、全く気にしない。それどころか興味も示さず、振り向くこともなく――殺伐とした景色の中で。
この瞬間私たちの間にだけ、穏やかでゆったりとした空気が流れているように感じた。
「これはもう逃せない、運命の再会ってやつかもな」
「え……」
ポツリと小さな声で呟いた彼の言葉が、私の耳をくすぐる。
(運命だなんて……聞き間違いだよね? そんなこと、あるはずがない)
学生の頃、彼の周りにはいつも人が集まっている人気者で。私はワイワイ楽しくみんなが会話している輪の中へと入るだけで精一杯。
笑って聞いてるだけの、“いち友人”的な感じだった。
そういえば、あっくん家は近かったのかな。帰り道が一緒になったことが何度かあったけれど。あの時は夢みたいで幸せだった。
――とてもじゃないけど、それ以上を望むことなんて出来なかったよ。
私には手の届かない人だと解っていたから。だから、あこがれで終わらせるのだと決めた。想いは心の内に秘めたまま中学を卒業したのだ。
(それなのに?)
久しぶりの再会で大人になっていた彼が今なぜか、少しだけ頬を染めて話してくれている。
そして、言ってくれた言葉。
「偶然とはいえ、今日ここでみぃちゃんのことを、俺が助けることが出来て良かった」
「あっ……うん、私も。あっくんに会えて良かったなって思う。ありがとう」
中学時代からそうだった。
すごい優しくって気遣いも出来て、スポーツも万能だし、モテモテで。
「いや……あのまま転んで落ちてたら、大怪我だ。“可愛い”顔にも傷がつくとこだった」
「かッ、可愛いって! もぉ、冗談でも言っちゃ――」
(あ……)
そんな子犬みたいなつぶらな瞳で褒め言葉を言われたりしたら、勘違いしちゃいそうになるよ。
でもそうして、いつも優しく声かけてくれてたから……。
「俺、本気でそう想ってるよ」
(え、そんな。心臓の音、聞こえちゃう)
ドキドキと大きく鳴る鼓動は、自分の身体中に響き渡る。
気付いてしまった。
私の想いは、色褪せてなかったって。
ずっと抑えてきた気持ち。
心の奥から“好き”が溢れてきているなんて、絶対言えないのに。
「今日、久々に会えて嬉しかった。それで急なんだけどさ、みぃちゃん。今日仕事終わってから、空いてる?」
「……(コクッ)」
あまりにも夢のような出来事に、私は言葉を失い頷くことしか出来ない。そんな姿に彼はまた笑いながら優しく言った――「ありがとう」と。
◇
「今夜、お食事、ぅぅう~嬉しいけど……どうしよぉー!!」
朝の駅で連絡先を交換してから、数時間後。憧れの彼、あっくんからメールが届いた。
『じゃあ、また夜に。再会した駅で待ち合わせしよう』
変わったのは、あの頃よりも背が伸びて、大人になった彼。
変わってないのは、優しい声と心遣い。
そして、素敵でカッコ良い笑顔。
(私は? 何か変わっただろうか)
「あの頃から、変わってないのは……」
――忘れられなかった、初恋?
彼の事を好きだというこの気持ち。
これから、どう変化していくのかな。
変わらないのは(fateful reunion) 菜乃ひめ可 @nakatakana
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