第2話 リチャード
吾輩は猫である。名をリチャードと言う。
満月の翌日に、この地域では猫が人間になる事件が増えているという。
そんな馬鹿なと思うだろう? 僕もそう思った。
鏡の前で、ボディービル並みの肉体を行使して決めポーズを取る、『ルドルフ兄さん』を見るまでは。
確かに兄さんは猫と思えない位デッカイし、筋肉もヤバイくらいついてて頼りになる相棒なんだけど、人間になると、あんなに怖いと思わなかった。
もう二度と、我が家の猫が人間なんかになりませんように――!
僕のその願いは、あっけなく打ち砕かれた。
*
「まぁ~! 今月の擬人化はリチャなのね!? ルドは雄々しいイケメンでかっこよかったけど、リチャは今時の若者って感じ! 可愛い系イケメンで目の保養だわ~」
主の母さんが、ほっぺをぎゅうっと挟んで僕の額にキスをした。
悪い気分じゃないけれど、
「ねえおかあさん、主は?」
おかあさんはちょっとだけ悲しそうな顔をして、
「あの子ね、ちょっと体の具合が悪くて……もうすぐ手術なの」
「しゅじゅつって、なぁに?」
「リチャも昔、たまたま取ったでしょ、あれよ」
「ええええ!!」
後から主に聞いたら、おかあさんの説明の雑さにぷりぷり怒ってたけど、そんな事、当時の僕が知るはずない。
「じゃあ、じゃあ、主に元気になってもらわないと! 元気いっぱい出たら、主、お布団から出てくるようになる?」
「大丈夫、きっと大丈夫よ」
*
ぴろんと、軽快な着信音が鳴って、私は微睡から目が覚めた。
スマートフォンの通知には一言。
『お前ん家の擬人化した猫、公園で大量の鳩狩ってたけど、大丈夫だった?』
だった。
私はがばっと飛び起きて、どの猫が何をしたのか不安になって部屋を出ようとした。
最悪の想像が脳裏をよぎる。
――ルドルフが全裸で鳩を狩ってたらどうしよう。
慌ててドアを開くと――……
「ぎゃああああああああ!!!! 生贄ええええええ!!!!」
――部屋の前には大量の鳩が、私の為に捧げられていた。
「あ、おはよっ! 主! しゅじゅつ、がんばってね!
主が狩できない間、お腹空かないように、僕がんばったよ!」
血まみれになった可愛い系王子様が、八重歯を見せてにっこり笑い、鳩をこちらに差し出していた。
動物の死骸処理は市へ電話で良いんだっけ?
とおもいつつ、さりとて、リチャの目の届かない所で始末するにはどうすればいいんだ、と、ぐるぐる考えているうちに、私の意識はどんどん遠のいていった。
「大丈夫? 主! 鳩食べる?」
「やめてえええええ!!!!」
飼い主メモ:
キジトラ猫のリチャードは、本当に整った顔立ちで驚いたよ!
プライドが高くて、子猫の頃から、上手く歩けず転ぶ可愛い姿を笑うと、「笑うな!!」ってシャーするほど。
でもとても情に厚くて、私(飼い主)が病気で寝ていると、スズメや鳩を狩ってプレゼントしてくれたんだ!
人間界ではホラーだけど、猫界では最大の贈り物なんだよ!
『吾輩は猫である。たぶんきっと、猫だった』 植田伊織 @Iori_Ueta
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