奴隷について
さて、話の途中ではあるがここで少し奴隷についての説明をさせてもらいたい。現実逃避、だと?まあ、否定はしない。状況を理解するというか色々と諦めるための時間が必要なのだよ……。
メネセラス王国が周辺国家の中では珍しく奴隷の扱いを厳しく取り締まっていることについては先にも述べた通りだ。理由は簡単で、この国が建国されるに至った戦いのきっかけが奴隷を始めとして搾取されていた人々の蜂起によるものだったためである。
自分たちを縛り付けて苦しめてきた制度を厳しく取り締まるようになったという訳だな。
しかし一方で完全な廃止撤廃には至らなかった。こちらの理由は少しばかり複雑だ。主だった要因は二つ、借金奴隷と戦争奴隷だ。
借金奴隷は読んで字のごとく借金のかたに奴隷になるというものとなる。字面は悪いが社会のセーフティネットの役割という側面があるため、易々とは廃止にすることはできないのだった。
分かりやすく『食』関連を例に挙げるとするか。まず、農業や畜産などは商品として売り出せるようになるまでに長い時間と手間がかかる。次に狩猟なども危険がつきものだ。前者であれば想定外の出費に対応できないこともあるだろうし、後者なら怪我で休養を余儀なくされることもあるだろう。
こういう場合、基本的には所属する村や町からの補助や援助、あるいは治めている領主へ嘆願することによって乗り切っていくことになる。が、領地全体や複数の領地にまたがるような大規模な災害などになるとそうはいかない。いかな大貴族であっても領民全てを長期間まかなえるほどの蓄財はない。
借金奴隷はそんなにっちもさっちもいかなくなってしまった民たちの最後の頼みの綱でもあるのだ。まあ、口減らし的な意味合いがないとは言わないがな。
それでもメネセラス王国では奴隷契約時にできることとできないことを明確に記録することが定められているし、年少者に対しては初歩的な文字や数字の読み書きできるように教育することを義務付けていたりする。
そのため奴隷として働く中で新たな技能や知識を会得することも多ければ、そこから飛躍する者も少なくはない。
借金奴隷がメネセラスの自国の民――中には他国から流れて来た連中もいなくはないが――であることに対して、戦争奴隷は他国の者たちとなる。要は捕虜、または戦利品だ。
その成り立ちから、周辺国にはメネセラス王国を敵視している国もある。当事者なんて誰一人として残っていないくらい昔の話なのだが、面倒なことに今でも勝手に屈辱に思っては根に持っているやつらが居るのだよなあ……。
そんな周辺国の連中が難癖を押し入って来ては我が国の軍に返り討ちにされて捕らえられ、更に身代金を支払われることなく引き取られることがなかった者たちが戦争奴隷という訳だ。
大半は志願したり徴兵されたりした平民なのだが、中には豪商一族出身の兵士やら貴族の将官なども一定数混じっている。箔を付けるために参加した当主や後継ぎならいざ知らず、いくら貴族や豪商といえど予備のそれまた予備に過ぎない三男以下や庶子の身代金を支払うだけの余裕などないのである。
いなくなってくれた方が良い、などという胸糞の悪いケースもあったりするからな。まあ、それは我が国のお貴族様方でも同様らしいが。
話を戻そう。箔付のために物見雄山気分で参加した貴族たちは自分たちの身の回りの世話をさせるために、戦場にまで侍従や侍女たちを連れて来ていることが少なくない。
思わず「バカなのか!?」とツッコみたくなること請け合いだが、こうしたやつらが幅を利かせてくれていることが我が国の安寧に一役買っていることも間違いではないので余りとやかくは言うまい。
さて、ここからが本題だ。高位貴族の場合世話役に供としているのは下位貴族の子女である。そしてこれまた当然のように彼ら彼女らが捕縛された場合に身代金が支払われて引き取られることはなく戦争奴隷となる。
何を隠そう俺がこの奴隷商館を訪れた理由こそ彼もしくは彼女たちなのだ。他家のしかも高位貴族に仕えることができるだけの知識と器量と経験を持つ人材となれば、貴族になったばかりで伝手も何もない俺のような輩にとって必要不可欠な存在であると言えるだろう。
もっとも、他国出身なので思わぬところで常識の違いがあったりするため、用心する必要はあるのだが。なお、奴隷契約によって出し抜かれたり騙されたり寝首をかかれる心配はほぼないので、そういった面でも重宝できると言えるだろう。
「……というはずだったんだけどなあ」
実際に俺が連れてこられた先に居たのはアリルメイ王女殿下だった。しかも何やらとんでもない大問題を抱えていそうだときている。なお、既に巻き込まれている感がひしひしとしているのだが、その点については今は考えないものとする。
「……ご主人、再度確認だが俺に提示できる奴隷は彼女だけという認識で良いのだろうか?」
無駄だろうなあ、と思いながらも一応尋ねてみる。悪あがきと理解していてもやらずにはいられなかったのだ。
「
そしてその答えは予想通り慈悲の一欠片もないものだった。
「もう一つ問う。もしもこの話を断ったらどうなる?」
「えー!買ってくれないんですかー!?」
格子の向こうから文句が飛んでくるが無視だ。この手の茶々に反応すると面倒事が急加速していくのは学園生時代に嫌というほど思い知らされたからな。あと殿下、あの頃の気安い口調で言うのは止めろ。
「正式な書状があるとはいえ王家の姫、しかも民からは『至宝』とまで呼び尊ばれている御方。その醜聞を隠すことなどはできませぬでしょう。先ほどおっしゃられました通り卿と私めの首で事を収められるのでしたら御の字、と言ったところではないかと」
悲報。選択肢なんてなかった……。
そうだよなあ。殿下が城に居ないことなんて
学園時代に事ある毎にやり込めていた貴族のボンボンどもが、嬉々として弾劾してくるのがありありと想像できてしまう。
国内唯一の認可奴隷商として主人もまた、後ろ暗いところのある貴族たちからは妬まれていたり疎まれていたりすると聞く。俺と同じかそれ以上の勢いで叩かれることになるだろう。
ちなみに、最も被害が少なく見積もってこれである。実際に表沙汰になってしまえばもっと多くの人間の首が――これまた物理的に――飛ぶことになるはずだ。
最悪の場合アリルメイ王女派の貴族たちが暴動を起こして内乱にまで発展する可能性すらあるのだから、一部の官僚文系貴族の粛清で終わるのならマシとすら言えるな。
「……つまり、俺たちが生き延びるためには購入という形で殿下を保護し、極秘裏に城へと話を通すしかないということか」
「さすがは学園卒業と同時に騎士爵を任じられるだけあって、話が早くて助かりますな」
「見え透いた世辞は結構だ。そちらの無理を聞くのだから金額の方はしっかりと勉強してもらうぞ」
けち臭い?曲がりなりにも王女殿下を迎え入れるのであれば、調度品など金がいくらあっても足りはしないのだ。むしろどう頑張ったところで間違いなく足が出る。逆に城から保護費とか滞在費とか貰えないだろうか?
騎士爵を賜ったからメイドが務まりそうな奴隷を買いに行ったら姫さm「他人の空似の別人ですわ」……が居たんだが、誰か正解の選択肢を教えてくれ 京高 @kyo-takashi
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