パラメーターに祝福を!

雪村灯里

祝福はほっぺにちゅー

 女なんて嫌いだ。すぐ泣くし、気に入らないことがあるとキーキー怒る。

 可愛さ? ないない。あんなのまやかしだ!! よく三次元の女に課金しようと思えるよな?


 初詣に向かうカップルやファミリーが行き交う路地の端。こごえながら友達を待ってた俺は、苦虫を噛んだ。たった今、ドタキャンの連絡が入ったからだ!


 『まなぶスマン! 彼女と初詣に行くことになった。あとで埋め合わせする!!』だと!?


 ちくしょう! また女に邪魔された!! この怒り、何かにぶつけないと気が済まない。


 SNSで炎上してる奴を叩くか? 匿名掲示板で誰かおちょくるか?


 俺はソシャゲのアイコンをタップした。ガチャのページを開き、石をブチ込む。俺の怒りに天がおののいたのか、画面が虹色にキラリと光った。


 ――よっしゃ! 来いSSR!!


 だが、来たのはSSRじゃなかった。


「よかったァ……生きてた!!」

「え?」


 見知らぬ女の子だ。目の前に俺と同じ大学生くらいの子が現れた。彼女はパッチリとしたブラウンの瞳に涙を溜めていて――いきなり抱きしめて来た! ふわりと甘い香りと、温かさに包まれた俺は突然の事に取り乱す。


「あのっ! 人違いじゃないっすか!?」

「マナブさんですよね? 間違いありませんっ」


 彼女は言い切ると、俺の左頬にキスした。


 え? いまキスしました?? 女の子に抱きしめられるだけでも幼稚園以来の経験なのに。白いコートにサラサラの金髪。え? これ、抱きしめ返していいの?


 狼狽うろたえていると、通行人の視線に気づいた。


『こんな人前でイチャイチャと……』


 ――はっ!! 冷静さを取り戻した俺は、抱きつく彼女を剥がそうとした。が……違和感を感じた。


 彼女の小さな背に、純白の翼が生えて頭上には光の輪が浮いていた。


 ◆


「落ち着いた?」

「はい! ありがとうございますっ!」


 俺は彼女を連れて、近くの公園に避難した。どうやら俺以外に彼女の翼と輪は見えないらしい。二人で温かい缶コーヒーを飲む。


「君、何者?」

「私、カレンって言います。天国サービスで天使を務めています! 人間界でお会いするのは初めてですね〜♪」


 俺はゆっくりと周りを見渡した。ドッキリか? 撮影か?? ――いや、不自然な行動をとる人物はいない。


「あのさ、カレンさん。天国サービスって何?」


 レンタル彼女的なモノだろうか? アイツ、ドタキャンの埋め合わせするって言ってたけど……これか? 早っ!! それに、心の準備が出来ていない!! む? 天国ってまさか……風俗!?

 心拍数が上がってきた。カレンはにっこりと顔を綻ばせて説明を始める。


「天国サービスでは、生まれゆく魂のお手伝いをしています。私はその運営スタッフですッ! ほんと、マナブさんに会えて良かった~。もう、奇跡!!」


 そんな嬉しそうに言われると、ドキドキしてしまう。でも、そういったサービスじゃないのか。胡散うさん臭さだけが増した。


「――で、俺に何の用?」

「はい〜! 今日はマナブさんを祝福しに参りました!」

「祝福って? まさか誕生日でも祝ってくれるの?」


 偶然にも誕生日はあと3日後である。


「それも良いですね! 採用です♪ 祝福は今風に言うと、公式によるパラメーターの調整ですね♪」


 ……パ、パラメータ? 公式? 今風ではなくソシャゲ風の間違いでは?

 頭の上に“はてな”を浮かべていると、彼女は真剣な顔で説明を続けた。


「人は生まれてくるときに、自分でパラメーターを割り振るんです。そのパラメーターが極端に高くないか、逆に低すぎないか? 神様と我々運営サイドでチェックするんです。例えば……あの女の人を見てください」


 カレンは離れた通りを歩く、女性を見ながら説明した。どこにでもいるお姉さんである。


「あの女性は『忘れられた貯金箱の金額運』が他より高いです。その分『最終回運』が極端に低いです」

「最終回運が低いとどうなるんだ? まさか死に方がむごいとか?」

「いえいえ。ドラマやアニメなどの様々な最終回が見れません。いろんな妨害が入ります」


 あー。それは嫌かも。


 でも、そんなレベルかとあきれてしまった。自称天使は困り顔で続ける。


「多くの人々が人生の課題を達成できるように我々が補正……祝福をするんです。じゃないと達成率が極端に減っちゃうので」

「達成できなくても仕方ないじゃないか、それがそいつの運命だろ?」


 人生、予定外の出来事は多い。


「それもそうですが……不幸は簡単に割り切れないものなんです。――割り切れない思いはレビューに反映されますし、ユーザー離れの原因になります。そもそもユーザーが居ないとサービス終了になっちゃう!」


 天国ほぼソシャゲと一緒やん。


「で、俺のパラメーターはどうなってるの?」


 わざわざ運営がお出ましする程だ。悪いのだろう。この19年を思い返してもロクな事が無い。カレンは俺の頭上を視ながらゴクリと唾を飲んだ。そこにパラメーターがあるのか。


「ある値が極端に低いです。エグれてます。本来なら出生前に補正されるレベルですが……」

「――! そうだよ。なんで補正されていないんだ?」


 この問いに、カレンは顔を暗くした。よっぽどの事情があるのだろうか。


「マナブさんがチェックを受ける半月前、神様が失恋しましてぇ……」


 はぁ? 失恋!?!?


「そして、酷い自暴自棄を起されました……。申請されたパラメーターの恋愛運を、勝手に下げ始めたりと無茶苦茶で。我々も補正したり神様を宥めたり、現場の混乱を鎮めたり……。約一カ月、時間外労働だったんですぅ! それで、うっかりパラメーター見過ごして、人間界に放流しちゃいました」


 うっかりにも程がある!!


「神様が落ち着いてデスマーチも終わった後、みんなで書類を片付けていたんですぅ。そこでマナブさんのパラメーター資料が出てきて……二度見しました」


 せめて、送り出す前に二度見してほしかった。


「あんなパラメーターで生きていくなんて……。ドМか変態しかいないので、私は心配で心配で……。こうして人間界にやって来ました」


 心配するにしても、俺を人間界に放流して時間が経ちすぎている。ドMか変態の道を20年近く突き進すませるな。


「で、俺のパラメーターはどこが低いんだ?」


 核心に触れよう。この茶番のオチをさっさと知って早く帰ろう。


「『異性からの愛され運』です。ざっくり言うと恋愛運です」

「さっき抉れてるって……えっ? 恋愛!?」


「はい。しかもマナブさん、ハードモードを選択されてまして。レベルアップしても、数値がなかなか上がらない仕様なんです。……『そこまで自分を痛めつけなくても』って、運営間で話題になりました」


 話題になるなら、もっと早く助けてくれい。


「ちなみに。このまま放置すると、どうなるんだ?」

「異性に愛されなくて、こじれます。拗れて拗れて異性だけでなく同性、家族からも見放されます。孤独はやがて優しさと倫理を失くし……インターネットの怪異に成り果てます。もう、神様が目を覆うレベル」


 え? 俺が普段見下してたあいつらと同レベルに成るってコト? 誰彼構わず暴言吐いて開示されて破産して……。


 さらに、異性に愛されない節に心当たりがあり、心が抉られた。ショックで走馬灯が過る。


『マナブ君、酷い事言うし、ヤなことするからきらーい』


 今まで出会った女子という女子。すべからく俺に風当たりが厳しい。周りの男どもと同じ行動をしても、なぜか俺だけ非難される。好きな子にアピールした時期も有った。だが女子は俺から離れて行く。


『眉毛くらい手入れしなさい』


 何なら最近、母親も冷たい。


 見た目で判断する奴なんてクソだ。俺は何者にも媚びない。誰かに合せるなんてもってのほか! 俺の中身を見て、好いてくれる人がいるはずだ。そう思っていたのに、19年……いや、もう20歳になる。ハタチの男なんてモテ期真っ只中のハズなのに!!


 俺は女の子に愛される世界線に思いをせた。もし、パラメーターが正常だったら……。クリスマスも正月も彼女と過ごしていただろう。俺、もっと生きやすかったかな……。


 冷たい左頬に、柔らかい温かさが触れた。またチューされたと気づいて振り向くと、カレンちゃんがにっこりと笑う。


「安心してください! 私がこうやって祝福して、パラメーターの数値を増やしていきますので!!」


 天使……。


 彼女の笑顔で心が少し軽くなり、茶番だと疑う気持ちは霧散した。俺の人生が変わるのなら……女の子に優しくされるなら……天使に縋りたい!


「たのむ! 直ぐに補正してくれ!!」

「もちろんです! でも、マナブさんはマイナススタートなので時間が必要です」

「ど、どれくらいかかるんだ?」

「一年くらいかかります。なのでこれから二人で頑張りましょ? 毎日祝福しますね♪」

「え? 毎日? ほっぺたにチュー?」

「はい! そうです!!」


 正直、この時は『これって、実質彼女じゃね?』などと心が躍った。しかし、後にこれは、俺達だけでなく彼女の運命をも変えることになる。


 こうして、俺の抉れたパラメーター補正が始まった。


(了)



 

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