未知との遭遇

惟風

お前のせいでおしまいです

「何が『未知』じゃあ! こちとらミチミチじゃあ!」


 真夜中に響き渡る中年男性の声、見るとそこにはブリーフ内一杯に満ち満ちた茶色い汚物が……。

 男性の後方には転々と脱ぎ散らかした衣服、そして溢れ出したと思われる茶色いブツがそこかしこ。目の前には公衆便所、白く輝く便器はもう後数メートルというところだった。

 あわれ哀愁漂うほぼ全裸中年男性、あともう少し便所が近ければ晒さずに済んだ醜態痴態。ズボン降ろすのはわかるがシャツまで脱ぐ必要なくない?


「排泄の際にはッ! 全裸になる主義である故ッ!」


 知らねえよ泣くなよ。よくその年までその習性で生きてこれたな。

 絶対に触れたくないけど行き合ってしまったからにはしょうがない。オレは上着を脱いで男に近づいた。深夜の公園、他に通行人がいないとはいえこれ以上の恥を晒したくはないだろう。ある程度公衆便所で洗い流してこの上着を纏えば、この男も家に帰るくらいはできるんじゃないか。


「ああッ! 未知がッ! 未知が近づいてくるッ! このままでは未知との遭遇により既知の死が吾輩に!」


 うるせえ。お前ら人間にとっては未知かもしれねえがこっちは普通に生きて暮らしてんだわ。

 ちょっと腕の数がお前らより二本多くて尻尾があるってだけでUMA扱いしやがって。人間を襲ったりしねえわ熊より安全だわ。

 夜の散歩を楽しんでいたオレを目撃して勝手に怯えて勝手に逃げ出して途中で強烈な便意に襲われてこのザマ、外敵に襲われる前にもう社会的に死んでいるのでは?

 半狂乱の男を半ば引きずって多目的トイレで尻を洗ってやった。良かったなオストメイトトイレ併設のところで。

 真冬に尻を洗われた男は絶叫し、刺激を受けた肛門が再度ミチミチと音を立てて最悪だった。


 未知ってのは知らないってことで、知らないと疑心や恐怖心しか生まれない。こんな地道な善行でも詰まないよりマシ、人間達に「害の無い存在である」と知ってもらうことに越したことはない。相互理解の一歩だ。争いは好まない。


 クソみたいな恐怖心と比喩じゃないクソを散々外に放り出した男は、色々スッキリしたのかびっくりするくらい大人しく低姿勢になった。

 糞まみれの衣服を袋に入れて持たして上着を貸してやると、頭が地面にめり込まんばかりに感謝されたのでまあヨシとした。

 これで少しでも人類との架け橋に繋がると良いなと思いながらオレは今や露出狂スタイルの男と公園入り口で分かれた。


 翌日、件の公園近くのマンションで女を殺した容疑者として男が捕まっていた。スーツケースに死体がミチミチに詰められていたらしい。

 人間の方が怖い存在だった。

 もういっそ滅ぼした方が良いのでは、と今度の軍事会議で進言しようと思う。

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未知との遭遇 惟風 @ifuw

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