冬アンチ、冬に物申す
ぴよぴよ
第1話 冬アンチ、冬に物申す
私は冬が嫌いだ。立派な冬アンチと言えよう。毎年冬が来ると、嫌悪感で身震いする。
大体、あの寒さはなんだ。
まず冷たいと手が使えない。布団から出られない。生物として活動の八割ほど制限される。だと言うのに、人間と言うやつは布やら暖房器具を工夫して、冬に参戦していく。
亀なら冬眠し、熊なら籠る季節だ。
冬に行動するやつはどうかしている。冬は滅んだほうがいい。
どうして私がここまで冬アンチになってしまったか。皆様に説明して行きたいと思う。
幼少期、私はそれほど冬アンチではなかった。一般人と同じように、季節を楽しみ、冬景色を見て感動する子供であった。
しかし問題は小学校一年生の時に発生する。
みんなで雪合戦をしたのだ。子供なので容赦がない。雪玉を投げつけるだけなら良いが、そのうち服の中に入れ出す子供まで出てきた。
ハメを外した子供というのは愚かなもので、やられた人間の気持ちなど二の次になる。
私はなぜかターゲットになり、服の中に雪を大量に入れられた。
その日、目立つ赤のセーターを着ていたから悪いのだろう。色で反応するとは、あいつら闘牛と一緒である。
背中に入れられた雪の冷たさ。尋常じゃなく冷たかった。寒気と痛みが同時に襲ってくる。冷たさも限度を超えると激しい痛みに変わるのだ。ジンと骨まで響くような冷たさだった。
逃げ回る私に雪玉を入れる子供達。私は痛みと屈辱で大泣きした。雪の中に倒れてしまい、いつまでも泣き続けていた。
子供達はみんな教室に入ってしまったが、私はずっと外で泣いていた。
しばらくして先生が発見してくれ、教室のストーブの前に連れて行かれた。
私に雪玉を入れた子供達はみんな制裁された。
セーターはびちょびちょになってしまい、保健室から服を借りた。
雪でやられた体というのは、単にストーブで温めただけでどうにかなるものではない。霜焼けのせいで、温めるとかゆいのだ。痛みと痒さで、私はさらに泣いた。
雪ってなんて恐ろしいのだろう。冬は嫌な季節だと思った瞬間である。
それ以降、小学生時代は雪で遊ぶことはほぼなかった。冬は図書室で本を読む子供になった。
ここから冬アンチの歴史が始まっていく。
中学生時代。冬は恋人たちの季節だと知る。
友達にクリスマスパーティーしようぜと誘うと、「彼女がいるから」と断られた。
なんだつまらん。ハッとして周りを見れば、みんなイチャイチャしている。
私は取り残されていた。
いつも猥談していた仲間も、次々と恋人を作り、教室内では甘い雰囲気が漂っている。
全くくだらない。クリスマスは仲間や家族とどんちゃん騒ぐためにある行事だ。
恋人と性的な行為をするための日ではない。
私は冬のある日、「リア充撲滅委員会」というものを発足し、メンバーを集めてクリスマスや初詣など、恋人たちの行事の粉砕に挑んだ。
廊下や教室でイチャついている男女を見かけると、駆け寄って「当校は男女交際禁止である」と言い、逃げるカップルを追いかけ回すという、どうしようもない委員会である。
しかし十二月も後半になると、委員会内で裏切り者が何名も出てしまい、会長の私を置いて、みんな卒業して行った。
一人になっても「クリスマス反対!」と叫んでいる私に、先生が「お前も恋人を作れば解決するだろう」と声をかけた。
なるほど。先生の言う通り恋人を作ればいいのか。そう思い、男女問わず追いかけ回したが、バケモノのレッテルを貼られただけで終わった。孤独に耐えられなくなった怪物として、いろんな人に哀れみの目で見られた。
私は恋人になってくれなんて贅沢なことは言わなかった。ただクリスマスデートしてくれと言っただけだ。
男友達に「デートだけでもしよう。今は多様性の時代だよ」とすり寄ると、「俺が死んでもいいのか」と言われた。私とデートするくらいなら命を捨てる方がいいらしい。
激しく傷ついた私だった。
ちくしょう、冬め。私に孤独感を植え付けて一体何がしたいのか。私を悲しませる季節なんていらない。そう思いながらも、クリスマスケーキを爆食いし、正月に餅を十個以上食べる私だった。冬なんて一人でドカ食いするくらいで十分だ。
まだ学生のくせに愛だの恋だの言っている方が、よっぽど不健全である。
この時には、ますます冬が嫌いになっていた。寒いし、寂しいし、どうしようもない季節である。
高校生。私の通っていた学校が進学校だったから、と言うのもあるだろうが、冬は勉強の季節だった。一年生から三年生まで受験に向けて全力を出す季節であり、浮かれているものなどいなかった。
私はチャランポランな劣等生だったので、まだ恋人が欲しいななどと言っていた。
私はいつも遅いのだ。ブームに乗れず、置いていかれる。
仕方なく勉強を頑張ってみたが、頭が悪いので苦痛ばかりが駆け抜けた。
雪が降る中、模試をやらされる。A判定だ、B判定だと騒ぐ学生たち。
私は三年生の時、偏差値十八という自分と年の変わらない偏差値を叩き出してしまい、伝説になった。先生から「君は受験せずに、就職を目指した方がいいだろう」と言われてしまう始末。なぜそんなこと言うんだ。許さんぞ、冬。
みんなはというと、要領がいいので、恋人がいながら勉強も頑張れていた。私のように勉強せず、恋人もおらず、食べてばかりの学生などいなかった。
共通テストの日。全く問題がわからずに、試験時間中はほぼ眠気と戦っていた。
テストの帰りには、雪が降っていた。
どうして頭の働かない冬に大事な試験があるのだろう。まあ私の場合、春だろうと夏だろうと、頭の悪さは変わらないので、いつ受けたって同じな気もする。
しかし冬にテストがあるのが許せなかった。
手が悴んで鉛筆が持ちにくいし、試験会場に冷たい風が入り込んでくると集中できない。ぼさっとした頭でいつもそう思っていた。
そんな感じで冬を嫌いながら成長していった私。
大人になり、何十回目かの冬を過ごしていた。これは去年の話だ。
車の運転をしていると、タイヤが滑った。ブレーキを踏んでも、頼りない音がするだけで、どんどん車が進んでいく。仕方ないのでハンドルを切った。
その途端、グルンと車体が回った。
私は後ろの車と対面していた。突然見る予定のない顔が目に飛び込んできた。
見れば、後ろの車の人が叫んでいる。口の形でわかった。
私も叫んだ。
もう一度車体を戻そうとハンドルを切る。死ぬ気でブレーキを踏むと、白線の上で車は止まってくれた。これ以上運転すれば危険である。
死ぬかと思った。だって知らなかったのだ。こんなに地面が凍っているなんて。それに後ろの人とご対面するなんて誰が想像するだろう。
冬が奪うのは体の温度だけではない。命まで奪おうとしてくる。
なんて恐ろしいことだろう。
もうアンチどころの騒ぎではない。私は心から冬を恨んだ。下手をすれば死んでいたかもしれないのだ。それに誰か殺したかもしれない。
許さんぞ、冬。
このように冬を憎み続けてきた私だが、本当は理想の冬の過ごし方というのがある。
冬に寄り添い、楽しく過ごしてみたいという願望があるのだ。
まず団地を用意する。高級な邸宅ではない。誰かの団地が必要なのだ。
そこに四人くらいで集まる。お菓子やフライドチキンなんかを持ち寄るのだ。
家の中に入ると、「いらっしゃい」なんて言いながら、友達が出迎えてくれる。ここでは間違っても私の家ではない。私はゴミ屋敷の住人なので、人なんか呼べないのだ。
とにかく友人の家に、私は招かれる客になる。
大きなこたつに入り、持ち寄った食べ物を食べながら軽く世間話をする。
そしてそれぞれ好きなことをするのだ。ゲームをしても良いし、本を読んでも良いし、執筆をしてもいい。お互いに楽しいことをそれぞれで行う。
それに飽きたら、突然誰かが「人生ゲームしよう」などと言い始めてボードゲームが始まるのだ。それを本気半分くらいの力でやって、ちょっと負けたら悔しがりたい。
夜になったら鍋を食べようって誰かが言い出して、鍋を始める。
こうやって集まっている時に、無駄に盛り上がらなくていいのだ。
淡々と楽しいことを行う。
そうやってる時に、大きなプリンとか、ちょっと高いアイスクリームが登場すると少し会場が湧く。こたつで、「ああ、温かい中に食べるアイスは最高だな」とか言いながら食べる。そんな冬を過ごしたい。
しかしそんな冬はない。よって冬が嫌いだ。
全く許せん季節である。将来は常夏の国にでも住みたい。
今年の冬は、こたつに入って、餅を食べて、鍋食べて、あったかくして過ごそうと思う。
・・外に出てみてもいいかもしれない。
冬アンチ、冬に物申す ぴよぴよ @Inxbb
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