カクヨムコン11お題フェス 【未知】

白菊

【未知】か。未知……未知?


 小説投稿サイト、カクヨム。

 このサイトの決してひとの目につかぬところには、常に、物語を抱えてサイトの表側へ降り立つことを望んでいる者がある。

 今のこの場所にもまた、そうした者が存在する。

 これはそうした者のうち、あるふたりの会話の記録である。



「もう12月だってよ」


「そうだな」


「カクヨムコンがはじまったよ」


「祭りって呼ばれてるんだってな」


「いいよなあ、みんな、いい物語を持ててさ」


「おれらはどうするよ?」


「どうするもこうするも、おれたちに素敵な物語なんか演じられないだろ」


「おまえが先にカクヨムコンの話はじめたんだろうが」


「だってみんな楽しそうなんだもん。いいよなあ」


「じゃあなにかるしかないだろ」


「おれたちになにができるってんだよ?」


「そりゃあ、おまえ……なんだってできるよ。おれたちは、そうだな、山田太郎と山田花子にもなれるし、なんじゃね財閥のお坊ちゃん、……そうだな、龍宮寺りゅうぐうじ、龍宮寺金司きんじとかにもなれる」


「なんかすごそうだな、龍宮寺金司」


「だろ? んで、最強能力を持ってレベルがカンストしてるような日本からの転生者……なににしようかな、ケンジにもなれるんだ」


「たしかにね。うん、おまえの言う通りだ」


「だろ? やってみないことには何者にもなれねえんだよ」


「うん。でもな、その脚本を書くやつが必要なんだよ。おれか、おまえか、両方だ」


「は?」


「は、じゃねえよ。役を演じるには、お話が必要だろうが。山田太郎にしろ龍宮寺ケンジにしろ、そいつになったおれたちが活躍するお話、筋書きが必要なんだよ」


「んなもん、つくれるわけねえだろうが。あとケンジは転生者であって龍宮寺のお坊ちゃんは金司だ」


「黙れよ。んでお話がないから困ってるんだろうが。おれたちはカクヨムコンに参加できないねーって」


「馬鹿野郎、それじゃあカクヨムコンへの参加どころか、カクヨムでひとさまに見つけてもらうことも叶わねえじゃねえか!」


「だから困ってるんだよ」


「どうするんだよ! 大変じゃねえか!」


「そうなんだよ」


「ちくしょう……おれらは、カクヨムの、だれにも見つけてもらえない、この裏側でくたばっていくしかねえのか……⁉︎」




 2025年、12月16日


「おい、カクヨムコンのお題フェスってやつがはじまったぞ」


「なんだそれ?」


「じゃあ読み上げるぞ? カクヨムからのお知らせ、カクヨムに戻る、2025年12月16日──」


「おお、待て。なんで目に見えるもの全部読もうとしてんの」


「『カクヨムコンテスト11【短編】にて「お題フェス」を開催します。これは6週にわたって毎週お題を発表し、みんなでそのお題をもとに短編を執筆するお祭り。だって」


「へええ。短編とお題フェスのところでカッコ、カッコ閉じって言ったのが腹立つけど、理解した」


「お題があれば、おれらにもなにか話がつくれるかもしれない! 話がつくれたらもう、役を演じて表に出ればいい! だれかしら見つけてくれるだろう!」


「えっ、そのお題はなんだって?」


「おう、えっとな……【未知】」


「あ?」


「だから、未知だよ。未だ知ってるって書く」


「未だ知らず、じゃなくて?」


「字は合ってるだろ」


「意味が合ってないんだよ」


「とにかく未知だ、未知! おれはやる気に満ち満ちてるぞ!」


「おい、待て。未知だって? なんだってそんな難しいお題なんだ」


「難しいのか?」


「難しいなんてもんじゃねえだろ、未知だぞ、未知! さっきも言ったが、未だ、知らないんだよ。の」


「それがどうしたよ?」


「知らないことを書けるわけがねえだろう!」


「え?」


「だから、おれたちが話にできるのは、おれたちが役を決めて演じることができるのは、全部なんだよ! 未だ知らないことなんか、できっこない!」


「なに……⁉︎ なんてことだ! じゃあおれたちは、せっかくお題をもらってもなにもできないのか……⁉︎」


「今回ばかりは、お題が悪すぎる。未知だぞ、だれがそんなものを書けるんだ!」


「でも待て、おれたちは知っていてもいいんじゃないか? おれたちは知ってるけど、おれたち演じる山田太郎だか龍宮寺ケンジだかが、未だ知らぬものと接触すればいい!」


「未だ知らぬものと接触……。なるほど、じゃあ──」


「黙れ だめだ それはだめだ」


「なんだよ?」


「おまえの言おうとしてることなんか想像つくさ。どうっしようもないこと言おうとしたな? くっだらないのにちょっと悲しくなること言おうとしたな? こんなところでおまえとふたり永遠みたいな時間を過ごしてちゃ到底知り得ないことについて言おうとしたな?」


「なんだよ」


「言うもんか」


「なんだよ。宇宙人でも召喚すればいいだろうと思ったのに」


「は?」


「宇宙人だよ。そんなもの、たとえばおれたちがなにか話をつくって表に出ていったとき、おれたちを見つけてくれるひとたちですら知らないと言ってもいいじゃないか」


「ふざけんなよおまえ」


「なんだよ」


「なんでもねえよ」


「なんだよ、はっきりしねえな」


「でも結局、問題は残ってるぞ」


「なんだよ」


「その宇宙人、おれらも知らねえじゃねえか」


「そりゃそうだ、世界中のほとんどのひとが知らない。なにせ未確認生物みたいなものだからな」


「それを、おれたちが、どう書くんだよ⁉︎」


「あっ……」


「ほんっとふざけんなよおまえ。どうするんだよ」


「違う、これはおれ悪くない! 絶対にお題が意地悪なんだ! こんなもん、答えられるひといるのか⁉︎」


「くっそ……お題をもらっても、おれたちはっ……カクヨムコンに参加できないっていうのか……⁉︎ こんなに悲しいことがあるか!」


「仕方ねえ。今回は諦めよう。いくらおまえだって覚えてるだろ、このお題のお祭りは、6週かけてやるんだ。まだまだ、他のお題が出されることだろう」


「じゃあ、そのときには、おれたちにも話がつくれるのか……?」


「ああ、【既知】くらいのお題だったらな……」


「そうかな。おれには見えるぞ、【既知】のお題にこうして嘆く、おれたちの姿が……」


「やめろよ。そういうこと言うなよ」


……

………


「あれ、なんだ、これ?」


「え、なんだそれ? ハート……?」


「おっ、おい! なんかいっぱい落ちてくるぞ! やわらかくなかったら怪我してる!」


「おい待て、なんだこれ、星も落ちてくるぞ⁉︎」


「なんだなんだ、なにが起きてる⁉︎」


「お、おい、おれだって他のひとたちが活躍してるのを見たりしてる。だからわかる!」


「なんだよ?」


「これ、応援と評価じゃないか⁉︎」


「はあ⁉︎ なんでそんなものが⁉︎ 素敵なお話をつくったひとたちの特権じゃないのか、こんなものに遭遇するのは⁉︎」


「まさかこれ……おれたちが【未知】について喋ってたから、それを公開されちまってるんじゃないか⁉︎」


「まさか! だれがそんなこと……⁉︎ ってまた落ちてきたぞ!」


「おいおいおい……こんなことってあるかよ……⁉︎」


「おい、まずはお礼申し上げろ! このハートと星のひとつひとつに、ありがとうするんだ!」


「おい、見ろ見ろ、この星3つも繋がってるぜ!」


「だからありがとうしろって、バチが当たるぞ!」


「待てよ、なんか緊張してきて……なんか変に汗かいてきた……! なんか寒い!」


「なにしてんだよ!」


「緊張してんだよ、おまえがおれの分もありがとうしろよ!」


「はあ⁉︎ おれとおまえ、ふたりで半人だろうが! 四分の一人でなにができるんだよ!」


「ちょっ、とりあえず、せーのでいくぞ? せーのっ」



「「あありががとうございますす!!」」



「揃えろよ!」

「ごめんて……」



「ん? おい、なんか文字まで落ちてきたぞ!」


「なに⁉︎ こ、ここ、コメントだああぁ……‼︎」





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