普通に格好良い推しが未知
名瀬口にぼし
第1話 普通に格好良い推しが未知
先日、ずっと応援している男性アイドルグループの15周年ライブに行ってきました。
いわゆるローカルアイドルである彼らは勢い重視の歌と笑いを売りにしていて、最近流行りのK-POPアイドルみたいなグループの洗練された芸風とは遠いところにいます。
だから私も彼らのライブを見るときは、今日も元気にイケメンがふざけてくれているな、という気持ちでオペラグラスを上げ下げするわけです。
当然、その日のライブも研究生を交えたコントが添えられていて、ファンは爆笑したり、苦笑したり、失笑したり、満員御礼というわけでもない会場は様々な笑いに満ちていました。
いつもの彼らのライブの風景です。
だけどコントを終えた後半のメドレーの彼らは、それまでとは違いました。
薄暗くなった会場で、彼らの持ち歌の中でも指折りにおふざけ要素の少ない、それゆえにあまりセトリに入ることのないクール系の曲のイントロがかかった瞬間、ファンたちはざわつきました。
今、ここで、このメンバーで、この曲を歌ってくれるのかと。
私ももちろん、うろたえました。
つい先程まではしょうもないコントの時間だったから、急展開に頭がついていかなかったのです。
寒色系のスポットライトが舞台を照らすと、イントロはもう終わりです。
歌唱が始まると、そこにはおちゃらけず真面目な顔をして永遠の恋の歌を歌う、私の推したちの姿がそこにありました。
良い感じに湿度のある歌詞に陰のある眼差し、切ない歌声に大人っぽいダンス。
そんな普通のアイドルみたいに格好良い彼らを見たのは初めてな気がして、私の心臓は高鳴ります。
よく見ると普段と違う真剣な表情で歌って踊ることに照れがあるようで、メンバーがもう全員30歳を過ぎているのに背伸びした雰囲気のあるパフォーマンスなんですけど、それでもやっぱりイケメンが挙動もイケメンらしくしようとしている姿は眩しくて、私は目に映るすべてを忘れないように頑張って見続けました。
1曲目に続くメドレーの他の歌も、所属していたレコード会社が違った時代のキラキラアイドル色の強い曲だったりして、私の前の席の女の子なんか飛び跳ねる勢いで喜んでました。
そう。お世辞でも冗談でもなく、本来は格好良いんですよ、私の推しは。
その後の終盤のトークで、あるメンバーは確かこんなようなことを言いました。
「俺たちは格好良くあることから逃げてきた。でも逃げずにやってみてファンの目を見たら、ちゃんと沸いてた。今でもまだ、そういうのを求めてくれていた」
斜に構えた佇まいだけど心は熱い彼がときどき聞かせてくれる本音は、飾り気がなくて真っ直ぐです。
いや、だからなんで、アイドルなのに格好良くあることから逃げちゃったんですか、と私は心の中で問いかけました。
でも彼らがそういう不器用な男の子たちだから、私はまだ飽きずにファンをやってるんだろうなあとも思います。
終演後には特典会がありましたが、私は金欠でグッズをあまり買えなかったのでそのまま帰りました。
まだまだたくさんの未知を残してくれている、15周年なのに伸びしろがありすぎる彼らが私の推しで良かったと、すっかり冬らしくなった寒い夜でも心は暖かったです。
普通に格好良い推しが未知 名瀬口にぼし @poemin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます