飼い犬と散歩している時でした
七乃はふと
愛犬との忘れられない出来事
私が中学生の時、一匹の犬を飼っていました。
中学入学と誕生日が近かった事もあって、前から飼ってみたかったコーギーを両親にねだって、家にお迎えしたんです。
主な世話は私がやるって約束して。
最初は、初めてのペットという興奮と、動画で見ることしかできなかった可愛さに触れて、寝食も忘れるほど夢中でした。
でも、段々と理想とは違う事に気づいてしまって。
生き物なんで、ネットや本の通りには行動してくれないんです。
特にトイレのお世話は、衝撃でした。事前に知っていても、直に見た時の衝撃は、大きかったですね。
それから、世話を母親任せになってしまって。怒られるかなとも思ったんですが、母はこうなる事を予想していたみたいで、弟が出来たようなものと言っていました。
私だって、任せっきりは良くないと分かっていたんです。
でも友達と遊んだり、携帯いじっている方がはるかに楽で楽しかったんです。
そんなある日の冬の事でした。
母任せになっても、散歩だけは私が担当なのは変わりませんでした。
毎日行っていたんですけど、その日だけは行きたくありませんでした。
推しのライブ配信と時間が重なってしまったんです。母にお願いしようとしたんですが、まだパートから帰って来ず、一日くらい行かなくてもいいかなと思ったんですが、部屋のドア越しにカリカリと引っ掻く音が聞こえたので、嫌々でしたが行く事にしました。
玄関開けた途端、冷気は吹き込んで眼鏡は曇るし、外は真っ暗。完全に行く気の失せた私がもう一度確認すると、向こうは行く気満々で、玄関先でクルクル回っているんです。
そうなってしまうと、止める術はありませんでした。
散歩コースは決まっていて、家をグルッと一周するだけ。
さっさと済ませて、お風呂入ろう。それまで配信終わらないでと願いながら歩いていました。
不審者注意の紙が貼られた電信柱の根元で、粗相した後始末をしていると、母からメッセージ。
今散歩してて、もうすぐ帰る事を伝えた、その時でした。
ピーンってリードが引っ張られて、見ると、何故かその場に座り込んでしまったんです。
早く帰りたかったので引っ張ると、座った姿勢のまま動いてくれないんです。
どうしたんだろうと、もう一度引っ張ったら、リードと首輪を繋いでいた金具が外れてしまいました。
コーギーは私を置いて猛ダッシュで闇の中へ。
私も後を追いたかったのですが、転んで受け身も取れずに顔から道路にぶつかってしまいました。
起き上がった時、あまりの世界の変わりぶりに、一瞬頭がついていけなくなりました。
原因は眼鏡でした。転んだ拍子に両方のレンズがフレームから外れて、伊達メガネ状態になってしまったんです。
破片が目に入らなくてよかった、なんて思う前に、何処かへ消えてしまったコーギーを探す事にしたんです。
けれど、自分が何処にいるのか分からない状況に陥ってしまい、とても探す状況ではありません。
眼鏡が破損したせいで、世界がぼんやりとしか見えないのです。
まるで水彩画に水を垂らしたような、何もかも混ざり合った世界と化していました。
それでも足元までは見えるし、勝手知ったる道だったので、とにかく足を動かす事にしました。
家と反対方向に。
コーギーは走り去った時に、家の反対方向に向かった事だけは分かっていました。
だから、そちらに向かって歩き出したんです。
本当は帰りたかったですよ。周りは夜だし、ぼやけてるし、転んだ時に切ったのか、口の中は鉄の味がしてました。
鼻の頭がジンジンしていたので、触ってみると、指にヌルっとした感触。
両親に助けを求めようとメッセージ送っても、そういう時に限って、電波が悪くて届かない。
色々な感情が爆発して、夜の住宅街の真ん中で、コーギーの名前を叫んだんです。
何度も呼んだんですが、反応は無し。
喉が痛くなってきたので、声を出すのはやめました。それに、その時は近所の人が声を聞いて助けてくれるかも? と淡い期待を抱いていたんです。
歩いても呼んでも見つからない。怪我したところも寒さで針を刺されたように痛みが増してきて、もう一度親に連絡しようと、立ち止まった時でした。
ザリ、と物音が聞こえたんです。
最初は風も吹いていたので空き缶でも転がったのかと思ったんです。
ザリ、ザリと規則正しいリズムで近づいてくるんです。
まるで足音……。
そう考えた途端、私は早足でその場を離れました。でも足音はついてきます。
私がわざと角を曲がると、足音も追いかけてきました。
歩きながら、携帯を取り出して、両親に助けを求めても、相変わらず届かない。
そうやって携帯と悪戦苦闘していると、耳元で……。
ハッ、ハッ。
荒い息遣いと湿った風が吹き付けられたんです。
走りました。携帯を落としたんですが、気にする余裕もありませんでした。
ザリザリと引っ掻くような足音はずっと聞こえて来て、距離が縮まったのか、ハッハッという不快な息遣いがまた耳に吹きかけられて、走りながら悲鳴を上げて目を瞑ったんです。
そして、転びました。
後ろから、ふくらはぎを掴まれたんです。
私は顔から転んで、来ないでと後ろに向けて腕を振り回したら、ペロってされました。
何処かに行ってしまったコーギーだったんです。
ぼやけた視界で前をよく確認してみると、そこは滑り台のように急角度の下り階段でした。
飼い犬と散歩している時でした 七乃はふと @hahuto
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