勇者枠、満席。――クレーム係は異世界に誤配属された

異世界の「勇者」は英雄ではなく、世界の魔力循環に同期してしまう危険物だった。
勇者が負の感情を言葉にした瞬間、結界・治癒・治安・気象が同時に乱れる“揺れ”が起きる。

コールセンターの苦情対応係として働いていた透は、勇者枠満席の影響で《404》誤配属され、勇者療養院（通称：処分場）へ。
彼が任されたのは、勇者が叫ぶ前に言葉を分解し、同意書で発話を制限し、声を預かる――“医療”の名を借りた制度運用だった。

「守る」「治療する」という言葉は人を安心させる。
だからこそ、それは拘束のカモフラージュになる。
透は罪悪感と怒りの間で揺れながらも、世界の安定のために文書を整備し、制度を強化していく。

勇者を救わないほど、世界は安定する。
正義の言葉が暴力を隠すとき、救いとは何か。
そして、言葉を管理する者はどこまで堕ちるのか。