最終話 ワシの事は〈叔父上〉か師匠と呼べッ!

 瓦礫を背負いながら行軍を続け、ある時は一人で魔物の群れを相手させられた。


 またある時は一人で盗賊団を壊滅させて来いと無茶振りされて命からがら壊滅させた。


 またある時は公国に恨みを持つ、元貴族が雇った傭兵団を殲滅して来いと、もうこれは私を殺す気なんじゃね? と思う命令に従い、ズシャアッと殲滅したりと有意義過ぎる一時を過ごさせられた。


 そして食事は相変わらずのマンガ肉&きな粉汁。


 いい加減、水が飲みたい……。



 そんなある晩――


「そう言えば、お主はもう身寄りが無いと言っていたな、郷愁の念は無いのか?」


「ええ、元々両親との三人暮らしでしたし、どうせ私を徴兵に送り込んだ後は両親が拓いた田畑も村長辺りに没収されているでしょうから、今さら戻りたいとも思いません」


「そうか……」


「私からも質問いいですか?

 今更ですけど、師匠のお名前を伺っていなかったのですが?」


「ふむ、ワシの事は〈叔父上〉か師匠と呼べばよい」


「それ、名前じゃ無いですよ?」


「良い、〈叔父上〉か師匠以外は許さん!」


「はあ……」


 最早、理解不能なお方師匠である。


――





「こんのォ、このクソ師匠がああああ!!」


「ふははははははっ、良いッ、良いぞッ!

その意気や良しッ!! ふははははッ!!」


「んが、ぐっぐ!」



 今日も今日とて瓦礫を背負い、休憩中諦めたに師匠に瀕死に何度も追い込まれる日々を送っている。


 最初の頃は『頑張れよっ!』なんて暖かいお言葉をかけてくれていた方々も――


『何で、あいつ魔法も使ってねえのに、回復してんだ? 可怪しくね?』

『てか、あいつ種族、何なの?』

『てか、可愛いけど魔物なんじゃね?』


 と言いながら、距離を取られてしまう。


 殿下はアラン様の陰に隠れて震えてる。

 理想の上司だったアラン様は目も合わせてくれない……。


 私を避けないのはガチムチさん達だけだ。


『流石、彼奴の初弟子だ! くそッ! 羨ましいぞッ!』

『もっと強くなれッ! そしてオレと殺り合えッ!』

『いいかッ!

 食事の基本を教えてやろうッ!

 肉肉肉肉ヤサイ肉肉肉パン肉肉肉だッ!』

『おお! 我の息子と殴り愛させてぇ!』


 と、全く意味不明であるが……。





 間もなく公国の本拠地のあるヴァンフォルストに到着する。


 帝国の一兵士であった私にも噂には聞いた事がある、〈魔の森〉が広がり、山々にはワイバーン、ドラコン、龍が蔓延る魔境。


 そこに住む者達はさながら悪鬼羅刹で己が力を高める為に進んで凶悪な魔物やドラコンに嬉々として挑み続ける狂人の国、ヴァンフォルスト。


 公国って、ヴァンフォルストだったのかぁ……。


 皆、〈公国〉としか言わなかったし、帝国があんな状況だったし、ここに来るまでは自分の命優先で〈公国〉が何処であるかなんて考える余力すらなかったから、考えもして無かったよ……。


 いや、薄々は解っていたよ?

 師匠、最早あの人、人じゃないし……。

 ガチムチさん達も人辞めてる人ばかりだったし……。


 あれ? て事は、師匠が言ってる〈イシュ坊〉って公子のイシュル殿下の事?


 と言う事は殿下は転生者?


 師匠の話を分析すると、色々現代知識持ってそうだし……?


 まあ、どうでもいいや。

 殿下と絡む事なんてどうせないし。


 あった所で『だから?』で終わる内容だしね。


 それよりも殿下を〈イシュ坊〉と呼ぶ師匠をクソ師匠呼ばわりしてる方が不味いかな?


 それもどうでもいいか、周りも一切気にして無かったし、本人は気にして無い所か嬉しそうだったからね。




 それにしても……帝国が滅んで明日をも分からない状況に放り投げられて、安定した生活が送れると思って、喜び勇んで弟子入りしただけなのに――



 どうしてこうなったッ!



 あ、これ……転生したら一度は言いたかった台詞だわ。


                 〈了〉

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きな粉はプロテインの代わりじゃありません! ナナシ(仮) @you2yo2

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