嘘つきなあの子の本当のこと

☒☒☒

第1話

 クラスに嘘つきな子がいた。

 塩は長年保存しておくとダイヤモンドになるとか、ビー玉にマヨネーズをつけると真珠になるとか、そんなことを言っていた。

 当時の私は彼女が嘘つきかどうか判断できなかった。

 あの子は嘘つきだけどとても可愛かった。

 背の順で一番前になるくらい小さくて、さらさらの髪はりかちゃん人形みたいで、肌もビスクドールのように艶やかなミルク色をしていた。

 あれだけ可愛いのに独りぼっちだったのは、たぶん彼女が嘘つきだったからだろう。

 私はそれに気づかなかった。

 他のクラスメイトたちは彼女が嘘つきだとしっていて、少し距離をおいていたのだ。

 そうじゃなければ、あんなに可愛い子がひとりぼっちでいるわけなんかない。

 あの子が嘘つきだったのは今考えると家庭環境とかそういうので愛に飢えていたのだと思う。

 私が彼女と知り合う前はひどい嘘ばかりだってけれど、私とであったころは担任の先生が彼女をよく見てくれたおかげか嘘はつくけれど人を傷つけることはなくなっていた。


 あの子の嘘は素敵な嘘が多かった。

 人魚の飼い方とか猿に羽を生やす方法とか。

 ありえないような嘘、そう彼女が私に話してくれた嘘はもう噓の域ではなく、まるで物語のようだった。


 そんな彼女はある日、私に言ったのだ。


「私、転校するの」


 一日の終わりが近づき、教室のなかが夕焼けと影の色に染まっていたときのことだ。


「いつ?」

「明日」

「えっ」


 もう彼女と会えないということだろうか。

 普通、転校するなら前もっていわれてみんなでお別れ会とかするのに。

 せめて今朝言ってくれていれば、今日一日をいつもどおりになんてすごさなかったのに。


 そう戸惑っていると、彼女は「嘘だよ」といって笑った。

 いままで、彼女から「嘘」なんて言葉は聞いたことなかったのに。


 そして、彼女は翌朝学校に来なかった。

 でも転校したわけじゃなかった。

 彼女は死んじゃったんだ。

 あの日、学校から帰ってから彼女の死体が見つかったんだ。


 子供だったからよく覚えてないけれど、学校にまでテレビの取材が来た。

 大人たちは何があったか私たちの耳に入らないように必死だった。はやく、事件のことも彼女のこともわすれて日常をやっているふりをしようとしていた。一方で、心のケアが必要な人はいますかと呼びかけ続けていた。


 一体何があったのだろう。


 そして、彼女は自分の身に何か起こることを知っていたのだろうか。


 私はいろいろとショックを受けていたみたいだ。


 当時、担任だった若い男の先生がよく気にかけて面倒をみてくれた。

 PTSDとでもいうのだろうか。いい年をしてお漏らしをしてしまうことがあったが、そんな私にあきれることなくその男の先生は世話をしてくれた。


 先生は私のことを支え続けてくれて、今でも私のそばにいる。

 私たちは結婚したのだ。

 たまにあの子のことを思い出して、夫にそのことを聞くと一生懸命私の頭を抱きしめて忘れるように言い聞かせてくれる。


 でも、私はあの子を忘れられないのだ。


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