第五章 雲を編む

事件後、瑞樹の恋人は深く頭を下げ、

疑って距離を置いたことを涙ながらに謝った。

瑞樹はその誠意を受け止め、もう一度、共に歩む道を選んだ。

そして思う――父があれほど楽しみにしていた結婚式を、なかったことにするわけにはいかない。

「いよいよか」と微笑んだ父の想いに応えるためにも、予定通り挙げよう。

それが、父と自分の未来を繋ぐ最初の一歩になるのだと信じて。


―― ――


結婚式の日。

純白のドレスを身にまとい、瑞樹は父のクラウド記録を再生した。


そこには、スマホの画面を見つめ「いよいよか」とつぶやく父の最期の記録が映し出されていた。

その声音は今も、瑞樹の胸の奥にやさしく残っている。


空を仰ぐと、白い雲がゆっくりと流れていった。

クラウドは断片しか映さない。

けれど、その断片を紡ぐ心さえあれば、真実には手が届く。


「お父さん……ありがとう」


小さく微笑み、瑞樹は未来へと歩き出す。

雲ひとつない視界のその先へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雲上の証人 @samuraisurfer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画