第8話 チーム制度

 午後の授業を終え、ノアは肩を回しながら寮への道を歩いていた。


(ふう……今日もいろんな意味で疲れた……)


 リアの「観察」。

 ミナの「心配」。

 そしてルーカスの「絡み」。


 入学初日としてはなかなか濃い一日だ。


 校舎を出てすぐの掲示板に、人だかりができているのが見えた。

 ノアはなんとなく足を止めて覗いてみた。


――【チーム情報更新】

 ・新規チーム登録:9件

 ・昇格チーム:1件

 ・ポイントランキング更新

 ・初心者依頼一覧


 ざわざわと、周囲が活気づいていた。


「ねぇ見た? ルーカスのとこ、もうEランクに上がってる!」


「入学前から素材集め行ってたらしいよ、ずるいよな……」


「まあ実力あるしね。下級魔獣も余裕って噂だし」


 聞き捨てならない名前が聞こえた。


(ルーカス……あいつ、もうチーム組んでんのか。

 というか、ランクまで上がってるって……)


 ノアが半信半疑で掲示板を見上げると――


◆チーム名:【ブレイザーズ】

 リーダー:ルーカス・バーン

 メンバー:3名

 現在ポイント:842pt(Eランク)


(……結構しっかりやってるな)


 魔術学院では、チームを組むことで依頼を受けたり、実習区域へ入る許可が出たりする。

 逆に言えば――チームがないと、活動幅は狭い。


「ノア」


「うわっ、リア……また無音で背後に立たないで!」


「掲示板を見ていたから。何か気になる情報でも?」


「ああ、チーム制度……まだよく分かってなくてさ」


「チームは三人以上で結成可能。

 申請には初回登録ポイント――1000pt必要」


「1000!?」


「あなたの反応は正しいわ。

 一般の新入生は、すぐには組めない。

 そのため皆、入学前から採取区画へ行って素材を集め、換金してポイントを蓄える」


(あー……だからルーカスのやつ、初日からイキってるわけか)


 そんなノアの胸中を読んだのか、リアが続けた。


「ノアはポイント、どれくらい持っているの?」


「えーっと……」


 ノアは袖口の魔力端末(シンボルリンク)を起動して確認した。


【所持ポイント: 7pt】


「……少なっ」


「入学説明のときに配布された初期ポイントね。

 あなた、入学前の採取に一度も行っていないのでしょう?」


「ああ……まあ、ちょっと忙しくて」


(忙しいっていうか……

 “向こうの世界”から来てしまったとか、

 そんな真実を言えるわけがないんだよな……)


 そこへ、別方向からミナが駆けてきた。


「ノアく〜ん! あ、リアさんも! 掲示板見てるの?」


「ミナもか」


「うん。あのね、クラスでもチーム作る話が出てて……

 なんか、もう誘われてる子もいるみたい」


「誘われてる?」


「うん。ルーカスさんのチームとか……昨日の子とか……」


「昨日の子?」


 ノアが顔を上げると――

 ちょうど、学食で絡んできた取り巻きのひとりがルーカスに報告しているのが見えた。


「ルーカス! 学食で魔力ゼロって噂のアークライト、

 チームどころかポイントも全然持ってねぇってよ!」


「はっ、やっぱりな。

 あいつ、この学院じゃすぐ詰むだろ。

 チームなしでやっていけるわけねぇし」


 それを聞いたノアは、ため息をつきながらミナに言う。


「……まあ、こうなるよな」


「ノアくん……」


「ノア。チーム、作る?」


「……え?」


 リアがごく自然な顔で言った。

 ミナも「あっ」と目を丸くする。


「あなた、チームがないと活動できない。

 素材集めも依頼も制限される。

 自力で1000pt稼ぐのは効率が悪い」


「そりゃそうだけど……リア、お前ポイント持ってるの?」


「研究のついでに集めた素材がある。

 現在所持――912pt」


(……なんで俺より入学初日感あるやつが持ってんだよ)


 ノアが呆れた顔になると、リアは当然のように続ける。


「あとミナは?」


「えっ、あ、わ、私は……203pt……!」


(普通に優秀だった)


「三人で合わせれば……1122pt。

 チーム申請は可能」


「ちょっと待って!? 本気でチーム組むの?」


 ノアが慌てて言うと、ミナがもじもじ手を上げる。


「私……ノアくんと一緒のチームなら……その……がんばれるよ?」


「え、ミナまで……?」


「私も興味がある。

 あなたの“ゼロ魔力”が、通常の魔術体系にどれほど支障なく動くのか。

 観察データは多いほど良い」


「理由の差よ!!」


 ノアは頭を抱えた。


 しかし、1000pt――。

 自分一人では到底届かない。

 学園生活を詰ませたくないなら、誰かと組むしかない。


(……リアは変な目で見てくるけど強いし、

 ミナは優しいし、

 二人とも俺を受け入れてくれてる……のか?)


 そんな迷いが胸をよぎる。


 そこへ、ルーカスの声が遠くから響いた。


「おいアークライト!

 お前みたいな“魔力ゼロ”に組めるチームなんてねぇぞ!」


 嘲笑混じりの声に、ノアは小さく息を吐いた。


「……よし」


 そして二人へ振り返る。


「リア、ミナ。

 本当に……俺なんかと組んで後悔しない?」


 ミナは勢いよく首を振った。


「しないよ!」


 リアは無表情のまま言う。


「むしろ好都合」


「好都合はもうちょっと別の言い方にしてくれ……」


 だが、その言葉が不思議と背中を押してくれた。


 ノアは小さく笑い、うなずいた。


「……じゃあ、俺たちでチーム作ろう」


 二人の顔がぱっと明るくなる。


 こうして――


 ノア、リア、ミナの三人チームが結成されることになった。


 まだ名前も決まっていない、小さな、半ば行き当たりばったりのチーム。

 だが、それは確かにルーカスたちに対抗しうる第一歩だった。


(よし……やってやるか)


 ノアの胸に、静かに闘志が灯った。

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2025年12月23日 03:00
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魔術が極まった世界。固有スキル「SCP」で無双します @orange_2916

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