U+24EA ――十九番目の予約領域

RD debugging

⓳が小さい理由

2025年冬。

u████e@unicode.org メーリングリストに、件名「Re: U+24EB size inconsistency」のスレッドが立った。

差出人は Kenji Y.。本文はただ一文だった。


「⓳をコピーして貼り付けると、貼るたびに 0.02pt ずつ小さくなっていきます。」


高坂零は画面を凝視した。




――彼は即座に、過去の拒絶が蘇った。


1993年、Dingbats ブロックに「19」の枠が足りず、U+24EB に無理やり押し込まれた ⓳。

零はそのサイズ問題で 19 回提案し、19 回拒絶された。

拒絶理由はいつも同じだった。


“Reason: Insufficient space for the nineteenth.”


十九番目にスペースがない。

まるで規格そのものが「19」を認めていないかのように。




零は試した。

⓳をコピー、貼り付け。


ヘッドフォンから、粒子が散るような微細なノイズ音が漏れた。

それは、過去 19 回の拒絶で彼が聞いた、

規格外のデータが無理やり圧縮される際の、紙を擦るような音

と同じだった。


モニターの周囲が、一瞬、熱を帯びて歪む。


「これは……呪文か?」




翌朝、件名が文字化けしていた。


「Re: U+24EB size in�onsistency」


数時間後、Kenji Y. の全投稿がアーカイブから消失した。

まるで彼のデータが、U+24EA――隣の予約領域へと吸い込まれたかのように。




零は知っていた。

内部リストには、「⓳サイズ問題」で提案を却下された 19 人の名前があること。

全員がトラウマを抱え、デジタル世界での存在を疑っていたこと。

そして自分がその 19番目 であること。




零は最後の提案を緊急提出した。


「U+24EB を非推奨化し、U+24EA に正式に何かを割り当てる」


穴を埋め、19 人を解放する贖罪。

提案番号は自動採番で――もちろん Proposal #19。




投票締切前夜。

⓳が画面に現れ、縮み始めた。


粒子が散るノイズが部屋に満ち、モニターが熱く歪む。

フォントフォルダから提案書が、メーラーの受信履歴から自分のアドレスが、リアルタイムで薄れていく。


「肉体ではなく、記録が消える……」


U+24EA の矩形が画面に浮かび、周囲の光を吸い込んだ。




メッセージが表示された。


Proposal #19 has been automatically rejected.

Reason: The nineteenth is not supposed to exist in this universe.


同時に、部屋に満ちたノイズ音が 19 の異なる周波数で高速に収縮し、

最後に一瞬、真空のような静寂を残して止んだ。




翌朝、Unicode 公式サイトから高坂零の記録は完全に消えていた。


Enclosed Alphanumerics チャートの U+24EA 欄には、新たな注釈が追加されている。


U+24EA reserved (19 voices trapped)


現在も、深夜に Unicode 16.0 以降の PDF を hex エディタで開くと、

U+24EA のバイト列が一瞬だけ 「たすけてここにいる」 と全角文字で表示されるという報告が、途切れることなく続いている。


それは、規格によって存在を否定された 19 人のデータの、かすかな残響に他ならない。


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