あられ

逢坂らと

私の家には、【三沢みさわさん】がいる。


三沢さん、だ。


本名は知らない。


けれど苗字みょうじは三沢、らしい。


私は時折、

三沢さんの下の名前を想像する時がある。


その中でもお気に入りなのが

【三沢ゆなこ】だ。


顔にかかった長い長い前髪と、

ヨレヨレのTシャツとズボンが

『ゆなこ』って感じがする。

あくまでも偏見へんけんである。



三沢さんは毎朝、あんぱんを食べる。


それじゃないと落ち着かないらしい。


私もそれに合わせて、

毎朝メロンパンを食べている。


ただし、流石にメロンパンだけでは

お腹が空いてしまう。


なので三沢さんがトイレに行っていたり、

彼女の部屋に入っている時に

私はこっそりお菓子を食べるのだ。


最近よく食べるのはポテトチップス。


どっかのファストフード店とコラボしていて

とても美味しいのだ。



昼は三沢さんとお揃いだ。


よく食べるのはカレー。


私も三沢さんも料理が苦手なので

基本、レトルトカレーだ。


お腹が空いた時にすぐ作ることができて、

とても楽ちんなのだ。


お米ももちろんパックご飯である。


不器用な私でも

電子レンジなら使いこなせる。






私たちは夜ご飯は食べないのだ。


そういう習慣にしている。


ちなみに、

そう決めたのは私だ。


そうしていいか聞いた時、

三沢さんは何も答えなかったので

彼女は了解した、

ということに勝手にしている。


けれどなんだかんだで

彼女も付き合ってくれているから

きっと大丈夫だろう。



ある日、

三沢さんは外に出かけたいようだった。



「珍しいね」


と、私は声をかけた。どこに行くの?



三沢さんは黙ったままだった。



ふーん、スーパー?


それともショッピングモール?


2人で旅行とか、行っちゃう?笑



私は色々質問してみたけれど

三沢さんは何も答えなかった。




ねえ、なんなのよ。


何かしたいならハッキリ言いなさいよ。



すると、三沢さんはつぶやいた。



「おかあさん



…実家?

三沢さん、実家なんてあったの?


私と仲間だと思ってたのに…


なんで隠してたの?


お母さんの家があること。




「特に話す機会もなかったから、

 言ってなかったんです…」



暗く小さな声で、

三沢さんはボソボソつぶやいた。


…嘘つきだねぇ。



「う、嘘じゃないです!本当のことですよ」



だって普通、言うでしょ。


お母さんの話とか。



「そっ、それはただ…!

 機会がなかっただけで…っ!」



もういいよ。


でもさ、

私まだ三沢さんと一緒にいたいからさ、

…どうしようかな。



「…っ」




…よし!決めた!


今日は夜ご飯を食べよう!


そしてご飯は全部三沢さんが作ってね。


美味おいしく作ってよ?


まずいものを私に食わせちゃ

ダメなんだからね?



「…っ、は、い…。はい、わかりました。

 ボロネーゼ、で、よろしいですか…?」









三沢さんは台所で料理をしている。


私はテレビを見ていた。


私の好きな作家さんが

最近亡くなったことをそれで初めて知った。



テレビにも飽きてきて、

ふと、三沢さんの方を見た。


青ぶくれな顔に、

チリチリの髪の毛。


足は短くって

すっごく猫背。



私もスタイルがいいわけではないが、

きっと私がなりたくない体型ランキング

トップ……1位だろう。


それほどまでに格好悪い姿勢だった。



ああ、情けないねぇ。




彼女が作った料理が

例え美味しくても、



私は「まずい」と言うつもりだ。



【終】





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あられ 逢坂らと @anizyatosakko

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