地下

白川津 中々

 我ながら、難儀な商売をしている。


「……は……は……え……!」


「ミツキさん、お疲れ様です」


「あ! お疲れ様です」


「もうそろそろ出番ですので、練習は止めた方がいいかなと」


「そうなんですけど……そうだと思うんですけど……」


「……緊張されていますか?」


「はい……だいぶ、あの、あがっちゃってます……」


「まぁそうですよね……ただ、一生懸命歌ってくれればお客さんも分かってくれるので、ステージに集中いただけると」


「はい! ありがとうございます!」


「……」


 引き攣った笑顔。小さなハコでも客を前にすればやはり緊張はする。しかし……


「みっちゃん、ライブできるなんてすごいね」


「テレビとか出たらいいのにね」


 キャパ100人程度のライブハウスに集まった客は全員、地下アイドル”ミリア”の身内や関係者。ライブというよりカラオケ大会に近く、正月に親族一同でカラオケ大会をするのと変わりがない。


 売れねぇよなぁ、あれじゃあ。


 心無い言葉を胸の中に仕舞い込む。歌が下手とか踊れないとか、そういう話ではなく、単純に、花がない。人に扇情や熱狂をもたらすための才覚がないのだ。


「い……は! ねぇ……わぁ……!」


 本番直前。控室でイヤホンを差しながら練習をするミリアを横目に、スマートフォンでチケットの売上状況を見る。


「変わらねぇなぁ……」


 小さな事務所、地下アイドルのマネージャー。主な仕事は金勘定。

 どうしてこの仕事に就いたのか、もはや忘れてしまったが、売れない女のために粛々と仕事をしなければいけない事は分かっているし、それが本来、俺が望んでいなかった事というのも認識できている。元より音楽業界、夢や希望もないというのは重々承知していた。だが、ほんの少し、僅かに、歌で感動できるのではないかと、そんな気持ちはあったと思う。ずっと音楽が好きで、歌手として売れようとしても駄目で、それでも諦められず、音楽に縋りついて、辿り着いたのが……


「みっちゃーん!」


「かわいい!」


 ライブが始まった。

 これから120分、俺は売れないアイドルと、その身内が楽しむ様子を見学しなければならない。


 音楽とは果たして何か。

 そんな疑問が、ふと頭を過ぎった。

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地下 白川津 中々 @taka1212384

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