この国で最初に産まれた十四歳のジョージ
寝台を出て階下に行くとスティーブはすでに起きていて、積み上がっていた食器も部屋も片付けられていた。
「起きていたんですか」
「お前こそ、まだ寝ててよかったんだぞ」
「いえ……」
戻ると言いかけたジョージの言葉を遮って、唐突に男が口を開いた。
「行くところがないならウチにいるといい。部屋も余ってる」
出鼻をくじかれた上での男の心からの申し出に揺れてしまった。
それは甘い誘惑で……。
だが、対する答えは一つしかなかった。
「家に戻ります」
それが、少年が出した結論だった。
「殺されるんだろ‼︎」
「結果、そうなったとしても、僕は戻らないと」
「駄目だ! お前みたいなガキに何ができる!」
「……何もなせず殺されてしまうかも。叔父はとても強く裏で権力を握っていて、僕は傀儡だった。でもあなたのジョージの話を聞いて、この街の様子を見たら、帰らないわけにはいけない」
王だから、とは言えなかった。
ジョージは無言で男の顔を見つめた。決して翻らない意志を瞳にこめて。
「十四才のジョージは、どいつもこいつも人の言う事を聞かねぇ頑固者ばかりだ」
男がため息をついたところで、玄関のドアが殴打された。
「スティーブ・メイソン! 扉を開けろ!」
「こんな朝っぱらから誰だよ!」
扉を開けると騎士が三人立っていて、両端の二人がスティーブにいきなり槍を突きつけた。
「スティーブ・メイソン。ブラックフライヤー橋崩落事件の犯人として逮捕する」
「は?! 確かに現場監督だったが、役人の御用聞みたいなもんだ! それに、あれが事故だったって結論を出したのはあんたらだろ!」
だが彼らは聞く耳を持たず、スティーブを連行しようとしたから、ジョージはその間に割って入った。
「待て!」
「なんだ、貴様は。こいつの息子か?」
「ジョージ! いいから。お前はここの留守を守ってくれ」
連れて行かれれば庶民の命などないも同然だ。
分かっていながら逮捕を受け入れ、ジョージに住居を与えようとしてくれた男に首を振って、隊長を見据えた。
「違う。だからこそ僕を連れて行け。あの人の事だ。白の塔から逃げ出した王を血眼で探しているはずだ。橋の崩落犯の逮捕は、世間の目をその捜査からごまかす目くらましだろう?」
ジョージの言葉は的を射ていたらしく、隊長はスティーブに向けた槍をジョージに変えさせる。
「ジョージ!」
「スティーブ、ありがとう。何もなせていなかった僕だけど、貴方を助けた『この国で最初に産まれた十四歳のジョージ』として覚えていて欲しいんだ」
誰か一人でも覚えてくれていれば、生きていた証にはなるだろう。
兵に引きたてられるジョージの胸には小さな誇りが宿っていた。
次の更新予定
2025年12月7日 13:00
リトルキング【改稿カクコン版】 オリーゼ @olizet
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